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真山仁     「雨に泣いてる」(幻冬舎文庫)

 主人公の大嶽は毎朝新聞の記者。2011年3月11日に東日本大震災が発生。その取材に山形を経由して、最大被災地宮城県の三陸市にはいる。

 実は、大嶽は阪神淡路大震災も経験して取材もした。そのときキャップだった先輩真鍋にきつく言われた。

 人助けのために記事を書くんじゃない。俺たちは、目の前に起きていることを読者に伝えるためにいるんだ。それに徹しろ。感情移入なんてするな。

 この考えが染みついている。
作品は、大きな惨状を、この信念に基づいての描写がずっと続く。状況を客観視しているため、淡々と描写され、リアル感が殆どない。

 真山と言えば、ドキドキハラハラさせる物語が信条の作家。こんなドキュメンタリー調の描写が続くのかとがっかりしていた。

 この物語、たまたま松本という新入記者が、別件で三陸市取材中に大地震に遭遇。しかも松本は新聞社社主の孫娘。

 この松本が大津波にあい、逃げ道を失う。そのとき心赦という少林寺の和尚が手を引き助けてくれる。松本は助かるが、心赦は津波に巻き込まれ死んでしまう。

 心赦和尚は、「七転び八起き」という塾を主催して、多くの自殺志願者を救ってきて、地元だけでなく全国でも名僧として有名だった。

 ところがこの和尚、10年前裁判官夫婦を殺害して逃亡している元警察刑事ではないかと主人公の大嶽は疑う。そして前部下を使いながら極秘捜査をして、ほぼ殺人者であると確信する。

 この捜査の過程と逃亡者だと確信するまでが面白い。大スクープだ。でこれを記事にしようとする。
 そこからが真山の真骨頂。いくら殺害者といっても、多くの自殺志願者を救ってきた名僧。
しかも社主の孫娘を死をかけて救っている。

 新聞は感情をはさまず事実を伝えるもの。編集局長も名僧が殺人者であることを一面トップにしようとする。しかし社内にはひたすら上におべっかを使う人間がいる。社主に密告して、スクープを記事にさせないようさせる。そうこうしているうちに、ライバル紙が毎朝新聞をだしぬいて記事にする。これに救出してもらった社主の助けてもらった名僧の真実は記事にしてはならないと孫娘の松本も加わる。そして極めつけは真犯人は俺だというものまで現れる。

 社内、社主、孫娘、ライバル紙の思惑が激しく交錯する。ここの描写はさすが真山とうならせる。最後の盛り上がりは見事だ。

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辺見庸    「ハノイ挽歌」(文春文庫)

 ベトナム戦争が終わって約10年後、ハノイを中心に1年余のベトナム滞在記。

ベトナムは確かにアメリカに勝利したが、民間人を含めたベトナム人の犠牲者は800万人(南ベトナム側含む)一方アメリカ側は5万8000人で、けた違いにベトナム人犠牲者が多い。とてもベトナムが勝利したと思える状態ではなかった。戦争終了後10年間ベトナムは貧乏だった。そのころはボートピープル、ベトナム脱出難民が大きな問題になっていた。
 辺見はホテルの部屋で、魔法瓶を倒し、二週間遅れの日本新聞にお湯をぶちまけてしまう。

「ドラゴンクエストⅣ発売に1万人の長蛇の列」という記事が掲載されていた。その濡れた32ページの新聞を屑籠にいれた。

 翌朝、ホテルの庭に捨てた新聞が4隅に小石がおかれて並べられていた。何をしているのかと聞くと、アルバイトのメイドが新聞紙を乾かして、包装紙として売るのだと言う。

 そういえば、辺見の書き損じた原稿用紙もメイドが小さく四角に切り、厚紙に挟んでメモ帳として裏紙を使っていた。
 市場で、モヤシを300グラム買ったら、バナナの葉で包んで、稲わらの紐で縛ってくれた。

ハノイの大学で聞かれた。
「燃えないゴミとは何だ」と。説明してあげる。聞いたベトナム人が「それはゴミではない」と怒る。まあ、一応リサイクルされる資源ゴミではあるが。

 思い出す。童謡に「良い子が住んでる良い街は」。この歌を歌っていた頃、街は良い街では無かった。そんな街になったらいいなという願いの歌だった。

 今のベトナムの街は、童謡で歌った街そのものだと辺見は思う。

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垣谷美雨   「あなたのゼイ肉落とします」(双葉文庫)

 痩せることに悩んだり、苦労している人のために送るユーモアダイエット短編小説集。ベストセラー「あなたの人生片付けます。」で活躍した大場十萬里の妹大場小萬里がこの作品では活躍する。

 園田乃梨子は体重計にのり深いタメ息をつく。59.8KG。二十顎に三段原、二の腕はプロレスラーのように盛り上がっている。高校時代から40代半ばまでずっと48KGをキープしてきたのに。49歳の今、炭水化物を抜けばと思い食材を変え挑戦してみるものの、全く体重体型に変化がおきない。

 ありとあらゆる方法をチャレンジしたがすべて失敗した。
そんな時、母親から大場小萬里が書いた本「あなたのゼイ肉落とします」を紹介される。この本は売れているのだが、小萬里は一切マスコミに登場しない、不思議な著者。

 当然期待せず本を読む。いきなりチェックシートが登場する。その感想をこめた乃梨子の反応が面白い。

1今までダイエットにチャレンジしたがうまくいかなかった。
 もちろんイエス。だからこの本を買ったんだ

2太っている人間はみっともないと思う。
 なんていう質問なんだ。そんなこと、この世の全員が思っている。

3道を歩いていると、無意識のうちに前方から歩いてくる人の体形を観察してしまう。
 下半身デブの女性なら、女性の脚に眼がゆくし、頭髪の薄い男性なら、すれ違う時、男性の頭をみる。

4何故か私だけは空気を吸っても太る
 本当にその通り。食事を抜いても、更年期のせいか、どんどん太っていくんだもの。

5太っていない人はみんな胃下垂だ。
 中年になって太っていない人はみんな胃下垂だ

6太っている人とは真の友情は結べない。
 これはいかになんでも言い過ぎ・・・だけど否定できない。

7太っていることが原因で、ものすごく落ち込むときがある。
 あるある。それもしょっちゅうだ。

全部イエスだ。イエスが4個以上の人は電話をください。個別指導をいたします。

 この質問に答えて乃梨子を含め4人が指導を受け、問題を克服してゆく。
なかなか大場小萬里の指導がユニーク。それは読んでのお楽しみ。

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| 古本読書日記 | 06:23 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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真梨幸子   「お引っ越し」(角川文庫)

 引っ越しにまつわるサイコミステリー6編の短編集。

主人公は、明日の朝、引っ越しをする。これで8回目の引っ越し。業者から提供されたダンボール箱に荷物をつめる。深夜0時、やっとダンボール箱詰めが終わったと思いふと、棚に眼がゆく。

 そういえば前の引っ越しのとき、もう不必要だと思ったものをとりあえずつっこんでいた物がある。

 不必要だったものだから、そのまま捨てればいいと思ったのだが、やはり気になるから点検しようと思いひとつひとつ手に取る。優柔不断な性格のため、必要、不必要、保留にわけ分別するが、保留のエリアばかり山積みされる。明日の朝には業者が来るというのに。

 突然1枚の紙が現れる。小学校の算数のテストで15点だった解答用紙だ。思い出す、75点のテスト用紙を家に持って帰ったとき、母に平手で思いっきり殴られた。80点以上でないと必ず殴られた。

 75点でも引っぱたかれたのに、15点のテスト用紙など何をされるかわからない。隠してしまおうと机の引き出し奥にしまいこんだ。

 一番にいらないものなのに、8回の引っ越しで持ち運んできた。
結局保留したものの殆どは、引っ越し先に持ってゆくことに決めた。しかしダンボール箱がたりない。

 仕方ないので、深夜コンビニにゆき空箱をわけてもらおうとする。空箱だけというわけにもいかないので、お腹も少し減っている、それでデラックス肉まん250円を2個購入。

 空箱2個では足りないように思ったので、思わず
「3箱」と言う。店員がかん違いしてデラックス肉まんを三つ袋にいれる。

 あーあとため息がでる。業者に頼めば空箱は一個50円なのに、750円もかけてしまった。

 主人公は今後引っ越しの都度、生涯15点のテスト用紙を持ち運ぶのだろうと思った。

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| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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窪美澄     「じっと手を見る」(幻冬舎文庫)

 小説の在り方評価を論ずるのではない。しかし自分が好きな小説はやはり現実によこたわっている社会の現実を描き、その上に作られている物語になっている小説だ。部屋に閉じこもり、想像、妄想だけに頼って書かれる小説を芸術的に高いと評価するひとたちがいて、社会を扱っている小説を低くみる、どうも妄想小説はついていけない。

 窪さんの小説は、社会がいつも描かれている。この小説も、介護士、デイサービスの現状が細かく丁寧に描かれる。東京に憧れるが、介護士として将来の希望がふさがれ、田舎にとりのこされた若い男女の悲しい恋愛、憧れの東京にしがみついた展望のない恋愛が、丹念に描かれる。

 恋愛の形を無理やり変えてみても、現実の辛さ厳しさが常に足を引っ張り、気が付くと希望のない元の世界に戻っている。

 物語は窪さんの心情が表れ、最後は希望に灯された状態で終了する。

しかしとても、希望があるようには思われない。
 ぜひ、窪さんに日奈と海斗のせつない恋のその後を描いてほしい。

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| 古本読書日記 | 06:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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