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伊集院静   「それでも前へ進む」(講談社文庫)

 数年前、故郷の高原に家族で旅をした。宿泊したホテルは、子供の頃疲れるまで走り回った高原には決して無かったリゾートホテルだった。故郷は変わったなあと少し寂しい気持ちで過ごしていた。

 夕食を家族で洒落たレストランで食べた。フランス料理だった。これも、昔の風景とは異なっていた。残念としょぼくれていたら、アルバイトの高校生が料理を持ってきてくれた。

 スカートからでていた足は、今は言ってはいけない、見事な大根足。そして何よりも、ホッペタがまん丸真っ赤だった。それは、高原をかけまわった女の子そのものだった。その時心底思った。故郷に自分は帰ってきたのだと。

 伊集院静が本当に好きだった。作品もみんな読んだ。伊集院は私より一つ年上。一緒の空気、風景を見てきた作家だ。

 この作品で伊集院は書く。
「夏の雲には勢いがある。子供の頃、陽射しを浴びながら積乱雲が刻一刻と姿を変えるのを見上げていた。『あの雲ライオンに似てるぞ』『ライオンが白鳥になった』」
「子供の頃、春の野山を走ると、転んだりして擦り傷がたえなかった。ズボンもよく破れた。家を出る前にそれを母がみつけ、ズボンを脱がされ繕ってくれた。
 あの頃、どの家でも子供の外着の替えは何着もなかった。一着を大事に着ていた。」

そんな伊集院が、遺言のように若者に言う。
「若者にしか通じないものは意味がない。それ以外の世代に価値を生み出すものではない、ということを真剣に考えるべきだ。
 自分たちの中だけでしか理解できないもの、他の世代と共有できないものだとしたら、それは埋没していく。下手をすれば一晩で崩壊する。」

  気弱く、情けない私は若い世代にこんなことは言えない。だから伊集院はすごいのだ。

 伊集院は私たち世代の代弁者であり、私たちの理想の生き方を貫いた人だった。

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| 古本読書日記 | 05:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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