fc2ブログ

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

貫井徳郎    「悪の芽」(角川文庫)

 他の人に確かめたことがないから、正しいかどうかわからないが、長い間生きてきて、ふいと思い浮かぶことは、幸せの思い出だろうか、それとも失敗した後悔の思い出だろうか。結構私は、その度ごとに人生でうずき突き上げてくるのは、あれはまずかったなあという後悔の記憶ばかり。

 この作品、斉木という男が、日本最大のコンベンションセンターで開催されたアニメコンベンションの会場で、入場者に無差別に火炎瓶を投げつけ、8人を殺害。そしてその後、自分で火をかぶり自殺する。

 この大量殺害事件の犯人斉木均の名前に接した、主人公の安達。大手銀行の出世街道まっしぐらのエリートサラリーマン。彼は、その名前をみて、犯人が自分の小学校の同級生だったことを思い出す。それと同時に、いつも心にしまってある人生最悪の記憶が蘇ってくる。

 斉木、名前は均でひとしというが、ちょっといやなことを言われたので、均はきんとも読むから、斉木均は「細菌」だね、と言ってしまう。これを、同級生の真壁が斉木均は「バイ菌」だとみんなにいいふらす。

 結果、斉木の配る給食は誰も食べなくなるし、ドッチボールで斉木にあたったボールは誰も拾わなくなり、斉木自身が拾いにゆくようになる。斉木は登校拒否児になり、それは中学卒業まで続く。

 安達は、斉木が小学校をでてからどんな人生を歩んだのかは知らない。しかし、斉木の無差別殺人の原因は自分が作ったのではと悩みだす。そして、それが抑圧になり、パニック障害になる。で、これを克服するには、斉木の今までの人生を調べ、自分の軽率な一言が斉木の殺害者となった要因ではないかと考えるようになる。

 この物語は、安達の懊悩と、その克服の物語かと思った。確かにそれは物語を貫いているが、それは平凡すぎると思っていたところ、後半からはいろんな人たちが登場。そしてその人たちの行動が描かれ、そんな単純な話ではなくなった。

 斉木は就職できず、契約社員でファミレスで働く。そこでの同僚。さらに当時キャバクラに通い。そこのキャバクラ嬢、殺害された人たちの家族、そして斉木の家族など。斉木の人生がめまぐるしく描かれる。

 斉木がキャバ嬢に言ったことが印象に残る。
「人間はまだ進化が十分じゃないんだ。社会的弱者に救いの手をって話になると、自己努力が足りないから、それは自己責任と言い出す人がいる。強い者だけが生き残り、弱い者が死ぬのは仕方ないって考えるのは動物の理屈だ。人間は動物であることをやめて、社会生活を始めたのに。そう、人間はまだ進化の途中。そしてその進化を遂げるには、あと数十万年が必要なんだ。」

 ここを読み、私は深いため息をつく。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 05:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT














PREV | PAGE-SELECT | NEXT