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東野圭吾   「祈りの幕が下りる時」(講談社文庫)

加賀刑事シリーズ完結作品。

以前の作品でも書かれていたかもしれないが、この作品でしばしば加賀とコンビを組み事件を捜査する松宮刑事、2人はいとこ同士ということを初めてこの作品で認識した。

 この作品では、主人公加賀の母親が突然失踪していたことが、この作品の以前のシリーズで書かれているが、その原因と加賀の生い立ち描かれる。さらに、荒川沿いのアパートで若い女性の腐乱死体が発見された事件が母親失踪とつながるという、加賀には辛い捜査が展開する物語になっていて、少し驚く。

 この物語では、2つのことが重なりあって悲しい事件が起きる。

以前から不思議に思っていたことなのだが、ホームレスの人はなぜ生活保護を受けて、最低でも普通の生活を送るようにしないのかという疑問。

 最底辺の人が追い詰められて、最後にお金を得る手段としてとる方法。それは、戸籍を売ることである。それにより、自らの存在をこの世から消す。

 そして、もう一つ、戸籍を買う人はどういう人か。本来の名前でなく、別の名前が必要としている人。何か事件を起こしていて、本名を消して、別人になりすませばならない人。仕事のために戸籍をバックにした住民票が必要な人。

 仕事のためということで、よく登場するのが原発労働者。原発労働者になるためには、住民票がいる。原発労働者は、電力会社が採用するのではなく、下請け、孫請け会社が雇う。

 常に被ばくの危険がある、恐ろしい条件下で労働者になるのだが、その分給料は一般労働者よりよい。そして、住民票は、雇用会社が本人にかわって取得してくれる。

 物語の主人公は、こんな父親を持つ、明治座で行われている演出家の女性。この父と娘の失踪、逃亡、そして再会と悲しい結末が、情感豊かに描かれる、悲しいがダイナミックな物語になっている。

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| 古本読書日記 | 06:07 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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