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中村航  「広告の会社、作りました」(ポプラ文庫)

 中村の作品は処女作「リレキショ」からよく読んだ。
中村は、芝浦工大の卒業で理科系出身の作家。それが影響しているのか、わからないが、我々文系人間とは、読んでいて全く異なる人間だと思った。

 文系の作家は、心象風景や心の動揺、揺らぎを言葉を掬い上げ、描写することに力を注ぐ。
それこそが、質の高い文学だと信じている。

 ところが理工系作家である、中村の小説は、そんな小難しいことは、一切なしで、けれんみなく、物語が進む。こんな小説もありかと衝撃を受けたことを思い出す。

 この作品はお仕事小説だが、中村の味が発揮され、楽しい小説になっている。

主人公の新米デザイナーの遠山健一は、勤めていた会社が突然、入社1年3か月で倒産。冷たい世の中に放り出される。そんな時、タウン誌の片隅に「天津功明広告事務所」でデザイナー募集の広告をみつけ、試験を受けに、事務所を訪ねる。

 するとその場所はマンションの住居。そこにデザイナーの天津がいて、住居兼仕事場として使っていた。そして、面接試験などはなく、採用でもなく、君は仕事のパートナーとして受け入れられる。

で看板も「天津遠山合同事務所」にかけかえ、取ってきた仕事によって得た利益はお互いに配分するという。共同フリーランス事務所となる。

 天津は言う。
「仕事は愉快にやろう。どんな仕事でもやるからには上機嫌でやってやろう。」と肩を叩いて励ます。

 住宅会社大手のKAKITAの新しい平屋の住宅の広告のコンペがある。だが、KAKITAは個人事務所には仕事を依頼しない。そこで、2人は天津の高校同級生長谷川の力をかりて、「天津遠山合同会社」を迷わずたった3日間で設立してしまう。

 しかしコンペは、広告最大手の伝信堂の受注が決まっていて、伝信堂以外の参加社は一社もない。唯一、無鉄砲な天津遠山合同会社だけが参加の名乗りをあげただけ。
 東京オリンピックの電通の汚職を彷彿とさせる。

しかし、真っ正直、まっしぐらに天津、遠山は突き進み、伝信堂に打ち勝つ。

 かって、住宅メーカーがうたったコンセプトが「庭付き一戸建て」。しかし平屋で天窓付き天津遠山がうたったコンセプトは「空付き一階建て」。

 鮮やかなスローガンだ。

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| 古本読書日記 | 06:54 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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