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小杉健治   「もうひとつの評決」(祥伝社文庫)

 小杉さんの作品は、いつも難しい問題を理論、理屈を排し、現実の姿に落とし込み、読者をなるほどと感心させる。この作品も、日本の裁判、裁判員制度の限界、問題を見事にえぐりだしている。

 主人公の堀川恭平は、ある裁判の裁判員として選ばれる。

その事件は、母娘2人の殺害事件。裁判員は6名、それに裁判長と裁判官8名で判決がなされる。

 裁判員裁判は、裁判員が正しい判断が行えるために、裁判の前に裁判官、検察、弁護士による事件の論点整理がなされた後、裁判が開始される。

 実際の裁判。被告は風采の上がらない30真近の男。警察の取調べでは、自分の犯行を認めていたのだが、裁判では一転、無実を主張する。

 これは、裁判員に大きな重圧を与える。2人殺したということであれば、過去の判例に従えば、死刑となる可能性が強い。無実か死刑かを判断せねばならないことになるからである。

 裁判は、一回、二回と進行する都度、裁判員が混乱しないように、必ず評議室で、裁判長による、論点整理とそれに対する裁判員の意見交換が行われる。

 そして、最後結審。
有罪無罪の判断。更に有罪の場合、量刑が、裁判官、裁判員の多数決で決められる。しかし、裁判というのは必ず正しい判断がなされる前提で行わられねばならない。ということは、裁判官や裁判員が代わっても、判決、量刑は同一でなければならない。しかし当然メンバーが代われば、異なった判決がなされる可能性がある。

 この裁判結審後の有罪、無罪の判定の際、事件を全く別の角度から見る必要があると裁判員からの意見がでる。その別の見方によれば、犯人は別にいて、被告は無罪となる。

 それで裁判員は、その新しい観点から捜査をやりなおす必要があるのではと、裁判長に迫る。

 しかし、裁判長はそれはできない、今までの審理内容で、判決を決定するしかないと言う。、それで今までの印象のみで採決に入る。結果有罪、無罪は5対3に分かれるが、多数決で有罪。そして量刑は死刑となる。

 その後、被告は、無実の言葉とともに、刑務所内で自殺をする。また、裁判員の一人は列車事故で死に、ある裁判員は事件現場近くで、殺害される。

 裁判員は、裁判内容、結果については決して口外してはならない守秘義務を負う。しかも裁判後に、裁判員同士が連絡を取り合うことも禁止されている。

 主人公の堀川は、この法律を破り、他裁判員を探し出し、逮捕覚悟で、他裁判員と共に被告が無実である記者会見と事件の真相について発表する。

 その経過の中で、裁判員制度の限界と矛盾が、読者の前に赤裸裸に明らかにされる。
実に重く考えさせられる作品だった。

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| 古本読書日記 | 06:37 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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