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島本理生    「あなたの愛人の名前は」(集英社文庫)

 結婚している、婚約者もいる身なのに、別の男性に抱かれ、そして我が家に婚約者の元へと帰ってゆく。そんな行動をする、女性を中心に描いた6編の短編集。

 こういう小説の場合、憎悪や醜い修羅場が描かれるのが常なのだが、この作品集には一切そんな場面は登場せず、しかもそんな男女の行為も美しく描かれ、島本さん得意とする透明感溢れる作品集となっている。

 夫は、アパートの隣部屋に住んでいた。幼馴染だった。ずっとお兄さんのような感じで育って結婚した。最近は関係はマンネリで体を合わせるのも間遠になっている。平凡すぎるつまらない日々が連続して続いている。

 そんな不満を友達の澤井に言う。すると澤井はここに行ってみたらと真白施療院を紹介する。その施療院での施療は結婚していること、紹介状があることが条件。

 澤井の紹介状を持って施療院を訪れる。

真白から素っ裸になってベッドで待つように指示される。指示に従って待っていると真白がやってきて、丁寧に主人公の体を扱う。久しぶりに気持ちが昂る。その行為が終わった後料金を払って施療院を出るときには、もう来ることはやめようと思うが、また日にちをそれほどおかずに訪ねてしまう。

 ある雪が降る日、夫が若い子と喫茶店で楽しそうな会話をしているのを店の外から見つける。

 あわてて施療院に電話をして、今から行きたいと言い、施療院に行き、真白の治療を受ける。行為が終わった後、真白が言う。

 「ここに来る人は、数回で来なくなります。離婚してしまうか、別の男を見つけるか、自分の家に戻ります。」

 主人公が施療院に来たときには、入口に足跡が付いていた。しかし帰るときには足跡は消えていた。主人公はそっと雪道に足を踏み出す。足跡はつかず、ハイヒールの先っぽが蟻のように小さくついただけ。まるで自分が、この施療院に来たことが無かったように・・・。

 ちょっとチクリとする。施療院のことは消そうとしても、思い出として残るだろうに。
収録されている「足跡」という作品より。

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| 古本読書日記 | 07:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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