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黒木亮    「アジアの隼」(下)(幻冬舎文庫)

 2000年近くに起きた、ヘッジファンドによるアジア通貨の一斉売りは、東南アジア、東アジア諸国の経済をどん底に突き落とした。

 当時、私の会社では、かなり規模の大きい工場をインドネシアに建設していた。それでしばしば出張していたのだが、ドルや円を現地通貨ルピアに変えると、バックパックに入りきれないほどのルピア紙幣をくれた。あんな量の札束を手にしたことは無かった。

 そしてホテルでコーヒーを飲むと、その札束が見るまにどんどん減った。その時独裁者スハルト政権に対し、市民の暴動が頻発し、ジャカルタは危険な状況になった。本社から駐在員、出張者は一時シンガポールに退避するよう指示がでた。しかし、肝心の航空券が手にはいらない。

 この物語で、主人公の真理戸もハノイからシンガポールに脱出をしようとしたが航空券入手が難航。やっと入手できた航空券を持って、空港に行くと、黒山の人だかり。殆どが中国人家族。真理戸が「よく航空券が手にはいったね。」と中国人に聞く。

 すると「中国人はいつでも、その国を脱出できるようオープンチケットを購入しておくのだ。そのチケットの期限がくると、延長申請している。」と答える。そう、アジアの国々の経済はその多くを中国人が牛耳っている。だから暴動が起きると、まず中国人が標的にされる。このエピソードよくわかる。

 それから更に驚いたのが、当時バブルが崩壊して、銀行は大量の不良債権を抱え、都市銀行であった北海道拓殖銀行が倒産した。

 拓殖銀行は、支払い金確保のため、持っている資産を安値で売却したり、強烈な貸しはがしを実行して資金を集めた。この作品で、必要な資金2000万円が手当できず、拓殖銀行は行き詰まったと書かれている。大の都市銀行が2000万円のために倒産したのかと驚いた。

 物語では銀行は仮名でなく実名で登場するのだから本当のことだろうと思いタメ息がでた。

 この物語で、日本長期債券銀行とアジアの隼とうたわれたペレグリン倒産の原因について、黒木が書く。
「両社の共通点が多い。どちらも営業部門が審査権限を持ったため、実質無審査で不良債権の山を築いた。成果主義を強調しすぎた人事システム。確定するまで悪いニュースが報告されない企業風土。そして何とか生き残ろうと他の外資に縋ったが、海千山千の外資に最後まで翻弄された。」

 即断即決、決めたらつっぱしれ。そんな経営が当時は確かにもてはやされた。

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| 古本読書日記 | 06:15 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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