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早瀬利之    「リタの鐘が鳴る」(朝日文庫)

 主人公リタはスコットランド、グラスゴー郊外の小さな街、カーキンティロボで開業医カウン家の長女として生まれる。この家に、大阪摂津酒造よりスコッチウィスキーの製造のため派遣された竹鶴政孝が寄宿した。そして、長女リタと政孝は恋におち、カウン家の反対を押し切り、結婚、日本へ2人で帰国する。大正10年1月である。

 この作品は、リタの日本での困難を描くとともに、政孝のウィスキー製造にかける、情熱を同時に描く。しかし物語の中心はリタと政孝の愛情物語。

 しばらく前にNHK連続テレビ小説で放送された「マッサン」の物語である。「マッサン」は欧米社会では相手を名前で言わずニックネームで呼ぶため、リタが政孝につけたニックネームである。

 私はテレビ小説はみていないが、関連の小説はいくつか読んでいて、リタ、政孝については多少知っている。

 政孝は、勤めていた摂津酒造が本格的ウィスキーを製造するため、スコットランドに派遣されるが、帰国すると摂津酒造は経営が傾いていて、ウィスキーが創れず、ウィスキー生産の野心を持っていた、寿屋(今のサントリー)に移る。そして京都山崎に日本で最初のウィスキー蒸留所を造る。

すこし時間がかかったが、徐々にウィスキーは売れ始め、サントリー躍進に貢献する。すると、社長の鳥井は政孝に横浜にビール工場を造ることを命じ、ビールの製造販売を目論む。しかしどのようにしても、サントリーのビールは全く売れず、このことで政孝と鳥井は確執が生まれ、政孝はサントリーを退社する。

 政孝はどうしても、日本でスコットランドと同じウィスキーを造りたかった。

私は会社時代、スコットランドに取引先がありしばしば出張した。その時、取引先にウィスキーの蒸留所を案内してもらった。この作品にもよく登場する北海に面したエルギンにある「マッカラン」の蒸留所も訪問したことがある。

 その時あの豊潤なスコッチウィスキーが生まれるためには、2つの要素があると思った。一つは美味しい水、そしてヒースの中に咲くピート。ピートは麦芽を乾燥するときに使う材料で、これによりウィスキーの香りが生まれる。

 そしてこの2つを持ち合わせる日本の土地が北海道の余市にある。政孝はここで、ウィスキーを造りたかった。

 資金は大阪の2人の富豪からだしてもらう。しかし。気の毒なのは妻リタ。大阪や横浜には、わずかながら西洋人もいるし、西洋風の暮らしもできる、しかし北海道の小さな町余市には西洋なるものは皆無。しかも気候はスコットランドより厳しい。更に戦争で、英国人はスパイとみなされ、常に特高から目をつけられ、日本人社会からは遠ざけられる。

 ここでの献身的なリタの姿には感動する。
リタは戦争中に肺結核になり、外出ができず、ずっと家の中での暮らしとなる。結局故郷に帰れたのは生涯一回のみ。母親の死に目にも会えなかった。ただひたすら政孝のために一生を捧げた。

 政孝の製造したウィスキーは最初殆ど売れず、会社は倒産寸前に追い込まれた。
しかし、会社を戦争が救った。政孝のウィスキーが軍隊の買い上げ品となった。そして、戦争直後、今度はGHQがすべて買い上げてくれた。

 戦争がなければ、政孝のニッカウィスキーは今は無かった。そこが少しホロ苦い。

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| 古本読書日記 | 06:19 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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