fc2ブログ

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

ポール オースター   「ブルックリン・フォリーズ」(新潮文庫)

 主人公ネイサンは、大病、退職、離婚ののち、疲れ切って、故郷ブルックリンに帰ってくる。そして持て余す時間を使ってこれまでの自らのバカげた行動を「愚行の書」として書きだす。

 いろんな個性的なブルックリンに住む人たちが、ネイサンの他にも登場する。過去に懲りずに、悪だくみを行う、古書店主ハリー。その古書店でネイサンと働くデブの30男独身のトム。

 ネイサンが昼飯を食べに行く食堂のウエイトレス。密にネイサンが想っている。またトムが恋心を強く抱いている、幼稚園バスの娘を送りだす、超美女のBPMなる人妻。

 そして、行方不明になっているトムの妹オーロラ、その娘の小娘ルーシー。
ブルックリンに住む彼らがおりなす、トラブル、出来事をオースターには珍しくコミカルで軽妙なタッチで描き出す。

 そんなブルックリンってどんなところ?オースターの素晴らしい描写に感動。

「白、茶、黒の混ざり合いが刻々変化し、外国訛り何層ものコーラスを奏で、子どもたちがいて、木々があって、懸命に働く中産階級の家庭があって、レスビアンのカップルがいて、韓国系の食料品店があって、白い布の身を包んだ長いあごひげのインド人聖者が道ですれちがうたびに一礼してくれて、小人がいて障碍者がいて、老いた年金受給者がゆっくり、ゆっくり歩いていて、教会の鐘が鳴って、犬が一万匹いる。」

 そして極めつけ。ルーシーを連れて母親オーロラに会いに、トムとネイサンが行く。ルーシーが母親のところへ行きたくなくて、途中でトムたちに内緒で、たくさんのコーラを車のガソリンタンクに流し込む。それを知らないトムが車のエンジンをかける。そのエンジンの音についての表現。

「しわがれ声のクスクス笑い?しゃっくりのピチカート?高笑いの狂騒曲?窒息しかけた」ガチョウか酔っぱらったチンパンジーの口からでたかと思われる音。やがて高笑いは、引き伸ばされた一音に、騒々しいチューバのような、人間のゲップの音と言っても通りそうな噴出音に変わっていった。・・・消化不良の産む緩慢で苦しげなゴロゴロ、末期的な胸やけを患った男の喉から漏れてくる低音の空気だった。」

エンジントラブルについてのこんな見事な表現ははじめて。オースターと訳者柴田元幸の素晴らしいコラボ。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。
<
 

| 古本読書日記 | 06:14 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT














PREV | PAGE-SELECT | NEXT