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小杉健治    「死者の威嚇」(祥伝社文庫)

 小杉5冊目の作品。小杉のミステリーはどの作品も奥行きとリアリティーがあり、感服するのだが、特にこの初期作品は、情熱と意気込みが尋常ではなく、本当に感動した。

 大正12年9月1日。関東大震災が発生。ちょうど昼飯時だったため、多くの家が火を使っていて、火災があちこちで発生。死者、行方不明者は10万5千人にのぼり大災害となる。

 このミステリーの起点は、関東大震災から始まる。作品を動かす大震災の内容は次の3点。

大震災では、戸籍が火事により紛失。だから、新たな戸籍造りは、役所への自己申告により再作成された。ということは、亡くなった人を語って申告ができ、震災前と別人が震災後生まれた。

震災直後から、朝鮮の人々が日本人を虐殺しているというデマが流され、日本人は街で自警団を作り朝鮮人を虐殺する。

 この作品で知ったのだが、虐殺は正当化され、殺人事件とはならず、むしろ虐殺は警察も含め奨励され、虐殺をすると虐殺した人は日本人から賞賛された。ひどい時代があったのだ。

 朝鮮人か日本人かを見分ける時には、自警団は対象と思われる人に「15円50銭と言ってみろ」と言う。朝鮮の人は「チュウコエンゴチッセン」と言う。すると即座に刺殺される。

 当時は、日本も方言をしゃべる人がたくさんいて、特に東北人は、うまく標準語を発音できず、朝鮮人とみなされ殺された人がたくさんいた。

 この作品は昭和60年が舞台となっている。ということは、関東大震災を経験し、自警団で朝鮮人や東北の人を殺害した人、あるいは殺害されかかった人、震災を契機に別人となった人が多く生存していた時。

 過去をひたかくして生きてきた人、震災での出来事がそのまま今に引き継がれ、新たな事件を引き起こしてしまう人が、折り重なり、重厚な物語になっている。

 小杉の深い思考と物語にかける強い情熱が迸り、感動を呼び起こす素晴らしい作品になっている。

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| 古本読書日記 | 06:06 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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