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堀江敏幸    「オールドレンズの神のもとで」(文春文庫)

 堀江さんの作品を、いつも渇望して待っている。堀江さんの作品は、ドラマチックな場面は皆無。しかし日常を描くと、その中に他の作家が書けない奥深い感動がさしはさまれる。これが、本当に心地よい。

 この本には掌編と短編が18編、収められている。
堀江さんの特徴が、どの作品にもよく表れている。

 主人公の私は交通事故を起こし、会社をしばらく休職している。その間リハビリを兼ねて安木夫妻が飼っている2匹の犬「オクラ」と「レタス」の散歩を引き受ける。

 この散歩の最中のちょっとした出来事、街の風景の描写がすばらしい。

家を建てている大工さんに会う。煙草を吸って休憩中の大工さんが主人公に声をかける。
「名前なんて言うの?」
「飯島と申します。」
「ちがうよ。犬の名前。」
「そちらがオクラで、こちらがレタスです。」
普通は犬の名前を聞かれたら、間髪いれずにオクラとレタスと答える。ところが、物語で堀江さんは間髪の間に見事な場面をさしはさむ。
「前歯の一部が欠けている。大工をしている友人も、以前、こういう歯をしていた。振り下ろした金槌が木の節の固いところに当たって、跳ね返った拍子に自分の歯を割ってしまったのだ。保険が無いからそう簡単には歯医者に行けないと、ずいぶん長いこと放っておいたようだが、欠ける、折るではなく、歯を割るという表現の生々しさに感じ入った覚えがある。」

 この文章が大工さんと主人公の簡単な会話にはさまり、物語に深い感動を生じさせている。

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| 古本読書日記 | 06:07 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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