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星新一     「つねならぬ話」(新潮文庫)

 奇抜な着想、空想で読者を不思議なワンダーランドにいざなう52編の小説集。

二人の囚人が十メートル四方の部屋を鉄格子で仕切られ、隣り合わせで収容されている。
食事も支給され、一日中何の悩みもなく、ごろんとして過ごし、日が暮れると眠り、夜明けとともに目覚める健康的な生活。体調もすこぶる良い。
 囚人が隣の囚人に話しかける。

「俺たちが刑務所にはいってどのくらいたったかのう。」
「もうわすれたよ。それにしても長い」
「このまま釈放されても、とても世間ではやっていけない。」
「そうだよ、ここは本当に居心地がいいからなあ。」
「たまに思うんだが・・・」
「なんだ、とても言いにくそうだな。思い切って言ってみろよ。」
「実は、俺たちとっくに死刑にされて、死んでいるんじゃないか。」
「いやそうかもしれない。過去の記憶はないし、未来もきにならず、現在には悩みが無い。
 だれが覗いても、俺たちは見えないじゃないか。」
「そうだよな。この刑務所も見えないだろうな。」

なかなかシュール。収録されている作品「部屋」より。

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| 古本読書日記 | 06:18 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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