恩田陸 「上と外」(上)(幻冬舎文庫)
不可思議な物語だ。考古学者の父親賢と別れて暮らす家族、母親千鶴子、主人公で長男連、その妹千華子。夏休みに父親賢の発掘調査をしている中米のG国に家族全員で過ごすためにやってくる。
のっけから、この家族の冷たい関係が描かれる。妻千鶴子は愛し合っている恋人が東京にいる。だから一年ぶりに夫と会うのに、完全に冷え切った関係にある。そんなふしだらな母親と娘千華子は完全に憎しみあっている。
千鶴子は離婚届を持ってきていて、夫賢に押印させる。しかも、娘千華子は、賢の子ではなく、今度千鶴子が結婚しようとしている男の子供であることが示唆される。つまり、錬と千華子は兄妹ではない。
こんな複雑な家族が、よく一緒に過ごそうとG国までやってくるものだ。この家族関係だけで、大きな物語になる。
こんな家族がチャーターしたヘリコプターが遺跡発掘現場に向かう。そこで、G国でクーデターが起こり、練、千華子はヘリコプターからジャングルに放りだされ、賢千鶴子夫妻はそのままヘリコプター基地にもどり拘束される。
ここから放り出された、練と千華子の死闘のアドベンチャー物語が始まる。
面白いと思ったのは、こんな都会のもやしっ子が、とても厳しい環境にあるジャングルで生き抜いてはいけないだろうと想像するのだが、恩田さんは違うと書く。
「不思議なもので、ジャングルを歩くのも4日目になると、身体がどんどんそれに順応してゆくのに気付く。
まず平衡感覚が鋭くなる。最初はでこぼこした地面を歩くのに四苦八苦していたのに、足の裏も体も、傾斜や凹凸のある個所にいちいち抵抗を感じなくなり、無意識のうちに、身体の中心がぶれないようにバランスを取っている。目は正面を見ていても、勝手に足がひょいひょい木の根や石ころをよけるようになるのだ。・・・・
また、皮膚感覚が敏感になる。これまでは背中の一部や首の後ろだけだったのが、今では身体の表面全体で周囲の情報を受けていることを実感する。まるで、自分の周囲が360度見えているような感じなのだ。」
そうか、苛酷な環境に放り出されると、人間は本来持っていた動物の本能的なものが目覚めてくるのだ。
恩田さんの持つ、深い洞察。感服した。
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のっけから、この家族の冷たい関係が描かれる。妻千鶴子は愛し合っている恋人が東京にいる。だから一年ぶりに夫と会うのに、完全に冷え切った関係にある。そんなふしだらな母親と娘千華子は完全に憎しみあっている。
千鶴子は離婚届を持ってきていて、夫賢に押印させる。しかも、娘千華子は、賢の子ではなく、今度千鶴子が結婚しようとしている男の子供であることが示唆される。つまり、錬と千華子は兄妹ではない。
こんな複雑な家族が、よく一緒に過ごそうとG国までやってくるものだ。この家族関係だけで、大きな物語になる。
こんな家族がチャーターしたヘリコプターが遺跡発掘現場に向かう。そこで、G国でクーデターが起こり、練、千華子はヘリコプターからジャングルに放りだされ、賢千鶴子夫妻はそのままヘリコプター基地にもどり拘束される。
ここから放り出された、練と千華子の死闘のアドベンチャー物語が始まる。
面白いと思ったのは、こんな都会のもやしっ子が、とても厳しい環境にあるジャングルで生き抜いてはいけないだろうと想像するのだが、恩田さんは違うと書く。
「不思議なもので、ジャングルを歩くのも4日目になると、身体がどんどんそれに順応してゆくのに気付く。
まず平衡感覚が鋭くなる。最初はでこぼこした地面を歩くのに四苦八苦していたのに、足の裏も体も、傾斜や凹凸のある個所にいちいち抵抗を感じなくなり、無意識のうちに、身体の中心がぶれないようにバランスを取っている。目は正面を見ていても、勝手に足がひょいひょい木の根や石ころをよけるようになるのだ。・・・・
また、皮膚感覚が敏感になる。これまでは背中の一部や首の後ろだけだったのが、今では身体の表面全体で周囲の情報を受けていることを実感する。まるで、自分の周囲が360度見えているような感じなのだ。」
そうか、苛酷な環境に放り出されると、人間は本来持っていた動物の本能的なものが目覚めてくるのだ。
恩田さんの持つ、深い洞察。感服した。
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| 古本読書日記 | 05:50 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑