有川浩 「空の中」(角川文庫)
有川さんの類まれな想像力がぐっと詰まった、スペクタクルエンターテイメント作品。
主人公の小学生瞬は、母親、祖父が亡くなり、父親は自衛隊の航空機のパイロットで岐阜の基地にいて、あまり家に帰ってこない。大きな家に一人で生活している。遊び相手は隣の家の同い年の佳江だけ。
そんなある日、近くの川でクラゲのような生き物に遭遇。その生き物を佳江と2人で家に持ち帰り育てる。この生き物は言葉をしゃべる。しかし最初は何を言っているのかわからなかったが、瞬が日本語を懸命に教えると、急速に喋れるようになり、文法は変だが会話ができるようになる。瞬と佳江はこの生物を「フェイク」と名付ける。
ある日、瞬の父親が試験機にのり飛行を行う。高度2万メートル付近で衝突事故が起きて、試験機は墜落、父親は亡くなってしまう。
高度2万メートルのところで何に衝突したのか調査するとそこにはクラゲのような物体がいて、その物体に衝突して墜落していたことがわかる。瞬の父親の飛行以前に同じ自衛隊員がやはりこの高度で物体に衝突して亡くなっていた。
瞬の拾ったくらげのような生き物は、その飛行での衝突により、おっこちてきた生き物のかけらだった。
この生き物は、高度2万メートルという何の危険もない場所で、地球誕生以来ずっと居座っていた。
ところが、自衛隊機がやってきて、安全な場所でないことを認識して、どんどんその高度を下げ、人間の視界内にはいってきた。
地上の人々は怖がるが、何も手を打てれない時、米軍が大量の爆撃をこの物体に対して行う。結果、この物体は粉々になったが、粉砕された物体は死ぬことはなく、それぞれが独立した生き物になった。この物体は「白鯨」または「ディック」と名付けられた。
こんな無数の物体が一斉に日本に攻撃してきたら対応する術は無い。そこで、自衛隊はその物体が攻撃しないよう交渉にはいる。
この交渉の描写に有川さんは物語の多くを割く。この部分が読みどころ。
元々この物体は一つの物体で体も心も一つ。ところが粉々になった破片はそれぞれが物体として独立し、考え方も異なるようになる。
平和を望むもの。相手が攻撃すれば攻撃を行うもの。戦いを最初にしようとするもの。
それで、本来「全き一つ」として行動してきた物体がバラバラになったため白鯨は対応できなくなる。
そこで自衛隊は彼らにない概念である民主主義を教えてあげる。議論は対立しても、最後は多数に従うということ。
この方法が白鯨に多数決により平和を望むことが選択され、以前の「全き一つ」が復活される。
作品を読むと、自由主義陣営と全体主義陣営の現在の世界での対立を思い出させる。
そして、民主主義を有川さんが採用してくれたことにほっと安心して胸をなでる。
瞬が拾った「フェイク」は瞬との信頼を壊さないようにと、粉々になった物体を食べてしまおうとする。その、友情の健気なさが、感動を呼ぶ。最後は全き一つに従い、大きな白鯨に吸収されてゆく。そこが切ない。
本当にスケールの大きい素晴らしい物語だった。
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主人公の小学生瞬は、母親、祖父が亡くなり、父親は自衛隊の航空機のパイロットで岐阜の基地にいて、あまり家に帰ってこない。大きな家に一人で生活している。遊び相手は隣の家の同い年の佳江だけ。
そんなある日、近くの川でクラゲのような生き物に遭遇。その生き物を佳江と2人で家に持ち帰り育てる。この生き物は言葉をしゃべる。しかし最初は何を言っているのかわからなかったが、瞬が日本語を懸命に教えると、急速に喋れるようになり、文法は変だが会話ができるようになる。瞬と佳江はこの生物を「フェイク」と名付ける。
ある日、瞬の父親が試験機にのり飛行を行う。高度2万メートル付近で衝突事故が起きて、試験機は墜落、父親は亡くなってしまう。
高度2万メートルのところで何に衝突したのか調査するとそこにはクラゲのような物体がいて、その物体に衝突して墜落していたことがわかる。瞬の父親の飛行以前に同じ自衛隊員がやはりこの高度で物体に衝突して亡くなっていた。
瞬の拾ったくらげのような生き物は、その飛行での衝突により、おっこちてきた生き物のかけらだった。
この生き物は、高度2万メートルという何の危険もない場所で、地球誕生以来ずっと居座っていた。
ところが、自衛隊機がやってきて、安全な場所でないことを認識して、どんどんその高度を下げ、人間の視界内にはいってきた。
地上の人々は怖がるが、何も手を打てれない時、米軍が大量の爆撃をこの物体に対して行う。結果、この物体は粉々になったが、粉砕された物体は死ぬことはなく、それぞれが独立した生き物になった。この物体は「白鯨」または「ディック」と名付けられた。
こんな無数の物体が一斉に日本に攻撃してきたら対応する術は無い。そこで、自衛隊はその物体が攻撃しないよう交渉にはいる。
この交渉の描写に有川さんは物語の多くを割く。この部分が読みどころ。
元々この物体は一つの物体で体も心も一つ。ところが粉々になった破片はそれぞれが物体として独立し、考え方も異なるようになる。
平和を望むもの。相手が攻撃すれば攻撃を行うもの。戦いを最初にしようとするもの。
それで、本来「全き一つ」として行動してきた物体がバラバラになったため白鯨は対応できなくなる。
そこで自衛隊は彼らにない概念である民主主義を教えてあげる。議論は対立しても、最後は多数に従うということ。
この方法が白鯨に多数決により平和を望むことが選択され、以前の「全き一つ」が復活される。
作品を読むと、自由主義陣営と全体主義陣営の現在の世界での対立を思い出させる。
そして、民主主義を有川さんが採用してくれたことにほっと安心して胸をなでる。
瞬が拾った「フェイク」は瞬との信頼を壊さないようにと、粉々になった物体を食べてしまおうとする。その、友情の健気なさが、感動を呼ぶ。最後は全き一つに従い、大きな白鯨に吸収されてゆく。そこが切ない。
本当にスケールの大きい素晴らしい物語だった。
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| 古本読書日記 | 06:27 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑