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道尾秀介     「風神の手」(朝日文庫)

 風が吹けば桶屋が儲かるという小話がある。その筋道にはなんとなくなんだが、理屈が通っていて、そうなのかと思ってしまうところがある。

 この物語、35年前、護岸工事中に川の汚染を隠ぺいしたことが露見したために、工事を請け負っていた町の一番大きな中江間建設が倒産。しかし、その汚染は当時町の不良仲間3人が仕掛けた悪だくみによって引き起こされていた。その不良3人が35年後に「町を盛り上げる会」を町役場と協力してたちあげ、町興しとなる「ウミボタル観察会」を企画運営して、町一番の立役者になるまでを人々の回想や、事実を調べあげ綴った作品。

 この作品はSFでもないし、ミステリーでもない不思議な小説だ。
SFやミステリーはどうしてそうなったかを理論的に説明する。この物語は、そんなたがをすべて外している。

 まず世の中には嘘が溢れている。本当のことを言うより、ここは嘘をついていたほうが良いと判断して嘘をつく。また、嘘をつく性癖の人もいる。その嘘をついたために、とんでもないことが引き起こされる。しかし嘘をついている時には、その場しのぎでそんな困ったことを引き起こしてしまう実感はない。

 この嘘に、予想できない多くの偶然が重なりあう。
結果、不良の3人が、町の名士になる。35年もあれば、新たに生まれたり、亡くなってしまう人もある。それも案外嘘と偶然の重なりあいによって起こる。

 道尾のこの作品、ミステリータッチなのだが、中身は人々の常識に挑戦している。
それでいて、嘘と偶然により、起きてきたことの謎を丁寧に回収している。

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| 古本読書日記 | 06:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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