久坂部羊 「人間の死に方」(幻冬舎新書)
久坂部は、現在の医療方法、倫理は間違っているという強い信念を持っている。そのことは、彼の父親(父親も医者)の生きざま、死にざまを見てきて、醸成されてきた。この本で、久坂部が父の生きざまを描き、自分の医療についての見方、考え方を展開する。
久坂部は20代後半から9年間日本大使館の医務官として海外勤務を経験している。その間、父子でたくさんの手紙をやりとりしている。
60歳を過ぎたころから、父の手紙の冒頭は、あと定年まで何年何か月という表現が書かれるようになった。そして65歳で定年になると、手紙の冒頭は今日から10連休とか30連休とか100連休になるとうれしさいっぱいで書いてきた。父は5歳の頃、何の束縛もなく自由だった時代と定年後の今が人生最高の時だと言い小学生から大学までの学生時代、それから仕事、定年までが最悪の時代だったという。これだけでも、久坂部のお父さんに共感を覚える。
お父さんは30年代で糖尿病にかかる。血糖値が700もあった。正常値は100余だから、いつでも糖尿病昏睡になってもおかしくない状態だった。病院に入院、退院後食事療法とインシュリン注射を行うようになった。
6か月は食事療法を続けたが、我慢ができなくなり、食事療法をやめる。インシュリンは家で自分で打つのだが、その前に血糖値を測り、量を決め行うのが常識。しかしお父さんは自分の体調で量を決め打つ。そして、お父さんは30年以上血糖値を調べたことは無かった。
たまたまかもしれないが、医者の指示を守らず、87歳まで生きた。
世間では長生きを良いことのように言う人も多いが、お父さんが87歳まで生きるということは、長い間、足腰が弱って行きたいところにも行けず、視力低下で新聞や本も読めず、聴力低下で音や声も聞こえず、排泄機能も低下、おしめをつけられ、風呂にも毎日入れず、容貌も衰え、何の楽しみもなく、ベッドの上で介護をしてもらいながら、一人で死ぬまで暮らになる。
本当にこんなになってまで、何年も暮らすことが幸だろうか。
医者は口癖のように「念のため」と言い、この検査、あの検査、この薬、あの薬と意味のない検査、薬を処方する。
家で救急車にのせられたとき、すでに死に体なのに、病院に着くと、おびただしい管を体に入れられ、検査、検査を行う。延命治療だ。患者は全く意識は無いのだから、静かに死なせてあげるべきだろう。
こんな常識を覆すような考えを久坂部は熱くかたる。久坂部の素晴らしい医療ミステリー作品が生まれることがこの本でよくわかる。
お父さんのウィットに富んだ言葉が心に残る。
「むかしは、親孝行したいときには親はなし、と言ったが、今は、親孝行したくないのに、親がおり、やな」
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久坂部は20代後半から9年間日本大使館の医務官として海外勤務を経験している。その間、父子でたくさんの手紙をやりとりしている。
60歳を過ぎたころから、父の手紙の冒頭は、あと定年まで何年何か月という表現が書かれるようになった。そして65歳で定年になると、手紙の冒頭は今日から10連休とか30連休とか100連休になるとうれしさいっぱいで書いてきた。父は5歳の頃、何の束縛もなく自由だった時代と定年後の今が人生最高の時だと言い小学生から大学までの学生時代、それから仕事、定年までが最悪の時代だったという。これだけでも、久坂部のお父さんに共感を覚える。
お父さんは30年代で糖尿病にかかる。血糖値が700もあった。正常値は100余だから、いつでも糖尿病昏睡になってもおかしくない状態だった。病院に入院、退院後食事療法とインシュリン注射を行うようになった。
6か月は食事療法を続けたが、我慢ができなくなり、食事療法をやめる。インシュリンは家で自分で打つのだが、その前に血糖値を測り、量を決め行うのが常識。しかしお父さんは自分の体調で量を決め打つ。そして、お父さんは30年以上血糖値を調べたことは無かった。
たまたまかもしれないが、医者の指示を守らず、87歳まで生きた。
世間では長生きを良いことのように言う人も多いが、お父さんが87歳まで生きるということは、長い間、足腰が弱って行きたいところにも行けず、視力低下で新聞や本も読めず、聴力低下で音や声も聞こえず、排泄機能も低下、おしめをつけられ、風呂にも毎日入れず、容貌も衰え、何の楽しみもなく、ベッドの上で介護をしてもらいながら、一人で死ぬまで暮らになる。
本当にこんなになってまで、何年も暮らすことが幸だろうか。
医者は口癖のように「念のため」と言い、この検査、あの検査、この薬、あの薬と意味のない検査、薬を処方する。
家で救急車にのせられたとき、すでに死に体なのに、病院に着くと、おびただしい管を体に入れられ、検査、検査を行う。延命治療だ。患者は全く意識は無いのだから、静かに死なせてあげるべきだろう。
こんな常識を覆すような考えを久坂部は熱くかたる。久坂部の素晴らしい医療ミステリー作品が生まれることがこの本でよくわかる。
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| 古本読書日記 | 06:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑