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中山七里   「アポロンの嘲笑」(集英社文庫)

 原発で修理、メンテナンス作業を行っている作業者は、孫請けどころか現実は玄孫請け企業が集める派遣労働者だそうだ。玄孫というのは、孫、ひ孫の更に下に位置する事業者のことである。電力会社から下請け企業が仕事を依頼されそれを玄孫事業者まで、それぞれの業者が利益を中抜きするのである。

 原発で行われる作業は、死に直結する危険と隣り合わせの作業。
この物語でも、原発の配管が折れ、作業者の一人が、下敷きになるという事故が起きる。
作業者はタイベックという防護服を着用して作業にあたるが、この防護服は放射能汚染については全く役立たない。

 その時指導者は、作業者にパイプの下敷きになった作業者は放っておいて逃げろと指示する。もちろん作業にあたっていた全員が大量の放射能を浴びている。この時、主人公の作業者が指導者の指示を無視して、下敷きになった作業者を救う。

 事故後玄孫請け会社は作業者に言う。「労災申請はするな。事故があったことは言うな。ばれたら仕事が来なくなり、会社は潰れる。」と。

 この作業者の中に、テロリストが混ざり、爆発物をしかける。その除去に警察の爆弾処理班が動員できるか。
 「数分いるだけで年間被ばく線量の上限を超えてしまうような場所に、警察のどなたが行きますか。それとも自衛官?タングステンテンペストを着込んだ完全防護服を着こんでも、ガンマ線を四割しか遮断できない。工区は一般人には迷路みたいになっている。慣れない者なら爆発物がしかけてある場所に辿り着くまでに30分から1時間。そんな地獄にあんたたちの誰が行くんですか。」 物語にでてくる和明が言う。

 原発の破壊は自然災害により起こるのではなく、人間により引き起こされ、放射能被ばく被害は深く沈殿し、表面にでてこない。そしてそのすべては名もなき末端作業者がかぶる。

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| 古本読書日記 | 06:11 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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