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川上弘美    「森へ行きましょう」(文春文庫)

 1966年の10月のある日、留津とルツという2人の女性が誕生する。物語はこの2人の女性の0歳から60歳までの歩んだ人生をパラレルに描く物語になっている。

 この物語を読むと、人生は大事であれ小事であれ、日々それどころか瞬間、瞬間に人生の選択を決断して、その結果今の自分があるのだと思ってしまう。

 留津もルツも、異なった道を歩むが、2人の人生に影響を与える人たちがいる。ということは、その人たちも、留津とルツとの関わり方により、彼らの人生が変わってくる。

 留津は大学では、「門」という幾つかの大学生が集まる文芸サークルに入会する。そこのサークルに憧れのイケメン学生林君がいるから。しかし林君は箱根に旅行したとき、同性愛者であることがわかり衝撃を受ける。

 この林君は、生物研究一筋のルツの学生時代の人生にも登場し、ルツを揺さぶる。

留津は、大学を卒業してある会社に就職するが、友達の紹介により神原敏郎と付き合い、結婚をすることになる。神原の父は従業員100人ほどの会社を経営していて神原はいずれその会社を継ぐことが予定されている。この神原の母親キク乃が型破り。とにかく敏郎大事。敏郎を人生をかけて支えることを留津に求める。

 何しろ結婚式が終わり、留津と敏郎がマンションに帰宅すると、キク乃がいて、敏郎が大好きなオムライスを作って待っている。そして、一緒にマンションに泊まっていく。

 そんな環境から、敏郎と留津の関係も冷たいものになり、敏郎は愛人を作り家にも帰らなくなり、留津も大学の文芸サークルで一緒だった八王子と恋におぼれる。

 一方ルツは、大学院に進学して、卒業後、国立山際科学研究所の研究員となり、研究一筋の人生を送る。恋らしいことも経験するが結婚はせず、妻子ある男性に溺れ、実りのない恋を経験し独身で60歳になる。

 作者川上さんは、森の中にはすべてが存在していると考えている。留津もルツもその森に分け入ってゆきそれぞれ違った人生を送る。人生の森の中に川上さんは、留津やルツから分離した、何人ものるつを最後に登場させる。

 大学時代サークル友達だった八王子に冷たくあしらわれ別離を決意した留津が風呂あがりに裸で全身を鏡に映す。すると鏡の中には別のるつがいて、私はずっと八王子を愛してゆくと宣言する。また別のるつは、にっくき夫敏郎を殺害して死体処理をしている。

 森は本当に深く人生の瞬間の決断により、異なった世界が作られる。川上ワールドが満喫できる作品だった。

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| 古本読書日記 | 06:44 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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