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小川洋子   「口笛の上手な白雪姫」(幻冬舎文庫)

 表題作をはじめ、孤独と偏愛に生きる人々を描く8編の短編集。

表題作の「口笛の上手な白雪姫」の銭湯で働く不思議なおばさん。銭湯の壁に描かれているペンキ絵。どことも知れない森の風景。その絵にむかって、おばさんが口笛をふくと、木々が成長したり、動物の毛がしなやカになったり、鳥の産んだ卵が孵化したりする。小川ワールド全開で感動する。

 しかし何といっても、感動したのは、冒頭の作品「先回りローバ」で、家に黒電話が設置されたときの描写。

 「形容しがたい丸み、暗号めいたダイヤル、耳にフィットするよう計算された受話器のカーブ、可愛らしげにクルクルとカールするコード、そうした何もかもがどこかしら、おちゃめいていたが、僕は最初からそれが、ただものでないことにちゃんと気付いていた。
 とにかくその黒色は特別だった。一点の濁りもなく、濃密で、圧倒的で、気高くさえあった。・・・そこに一つの黒い塊があるだけで、階段裏の薄暗さが奥行きを増すようだった。」

また別の作品「かわいそうなこと」の補欠選手のライトは切ない。打っても、走っても、守ってもだめ。
いつも試合が決まったあと、最終回2アウトで守備交代でライトにつく。

守備位置に着くとき、誰からも声をかけられない。拍手も声援もない。誰も自分を見ていない。
そのときできるプレイはひたすらライトにボールが飛んでくるなと祈ること。

万が一ボールが飛んでくる。なすすべもなく見送り、それでも気休めに見当はずれな方向にグローブをさしだし、失笑と野次を浴びながら、一人皆に背を向けて遠くへ走りさる。

 右翼手はずっと重荷を背負って恐怖に耐えている。
かわいそうで、切ない右翼手。

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| 古本読書日記 | 06:37 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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