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林民夫    「糸」(幻冬舎文庫)

 私のような古い世代にはあまり実感はないのだが、今は子供の7人に1人は貧困に苦しんでいるのだそうだ。

 この物語の主人公は、チーズ作りで栄光を勝ち取った高橋蓮とシンガポールでのネイルサロン経営で成功後、投資詐欺にあい経営に失敗した園田葵の2人だが、本当の主人公は、2人の故郷北海道の美瑛で、まだ「こども食堂」という言い方が無かった30年前から自分の年金をやりくりして、こどもたちに手料理を提供している80歳を超えた村田節子だ。

 物語の作者林は「空飛ぶタイヤ」「永遠の0」「ゴールデンスランパー」の映画の脚本を手掛けた有名な脚本家だ。
 物語は、深堀が不十分で、内容は薄い。しかし名脚本家、最後に思いを込めた場面を用意していた。
 主人公の蓮も葵も小さい頃、節子の家によく行き、節子のだす食事を食べていた。

節子の家に食事をしにくる子供は、親が子供の育児を放棄したり、生活苦で子供を養えない家庭の子、(この物語では葵が該当)、もいるが、普通の家庭で両親が共働きで不在のためやってきて食事をする子供もいる。

 節子が雑誌記者の取材に答えて吐き出した言葉は。著者林民夫の叫びだ。

「子どもの面倒がみられない親というのは昔からいたからね。近所の人間が食事を与えるなんてことは当たり前のことだったんだよ。親がいなくても共同体が子どもを育てることができたんだ。でも十年ぐらい前からね、・・・いや、震災のもっと前からだね。目にみえる形で子供が変わったんだよ。あんたは飯を食ったら、とりあえずは笑顔になっただろう。でも、違うんだ。表情が無いんだよ、今の子は。飯を食っても。食う前と何も変わらないのさ。まだ、子供なのに、人生はこんなものだと達観したような感じなんだよ。親も変わったよ。昔の親は、嘘でも、いつもありがとうございます、すみませんと言ったものさ。今は違うんだ、もっと栄養のあるものはないんですかなんて、文句を言うんだよ・・・あ、この煙草かい?言いたいことはわかるよ。言いたいことはわかる。言いたいことはわかるって言ってるんだろうが。今は子供の前じゃすわないようにしているよ。でもこっちは無償でやってるんだよ。当たり前に権利だけを主張してさ。感謝の言葉をかけてほしいわけじゃないんだよ。でも文句を言われる筋合いもない。そうだろう?それが、昔のように、あきらかに暴力をふるう人間とか、社会から逸脱した人間とかじゃ無いんだよ。ちゃんと会社勤めをしている普通の人間なんだ。毎月、給料もらって、平凡な暮らしをしている連中なんだよ。金がないわけじゃない。それなのに子供を放置するんだ。なのに文句だけは一人前だ。社会に繋がっているように見えるけど、どこにも繋がっていないように私には見えるけどね。」

 さすが脚本家。こんな喋りは作家にはできない。特に煙草についての喋りは。

この作品は中島みゆきの「糸」をモチーフにしている。映画と本を抱き合わせにしてヒットさせようとする幻冬舎社長の得意の戦略。さて、その思惑通りにゆくだろうか。

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