堀江敏幸 「燃焼のための習作」(講談社文庫)
築40年になる雑居ビルに探偵家業か便利屋のような事務所を備える枕木。そこに熊埜御堂という男性が訪れる。妻が息子を連れて失踪したので探してほしいと。こんな場面から物語は始まるから、探偵物かと思ったが、全く異なっていて、ひたすら、ネスカフェを飲みながら、事務員の郷子も加わって会話が続くという作品。
会話は、過去の記憶、自分が遭遇したことだけでなく、誰かから聞いて記憶にあるものが、語られる。ある記憶が別の人の印象深い記憶を呼び起こし、まるでしり取りのように繋がってひたすらおしゃべりが行われる。
外は強い風雨。とぎすまされた繊細な作家の神経から生まれる表現は感動を呼ぶ。
「この街では、風は断続的に吹くのではなく、ひとつずつ大きな袋詰めになって建物にぶつかってくる。古いサッシ窓の鉄枠が揺れ、今にも雨が吹き込んできそうな音をたてて、球体の風と線状の風が複雑に交じり合う。都心の高層ビル群の下ともまた別種の巻き方をするのだ。小さめの底の、まだぬくみの残る小さな空き缶がいくつも、転がるのではなく筒の底の円周の一点を支えにして床運動のように勢いよくはねあがりながら移動してゆく。」
それと面白いと思ったのが、呼び起こされる記憶が、いつも接している家族や周囲のひとではなく、全く忘れてしまったような偶然であった人や、」偶然の出来事の記憶ばかり。
人に強く残ったり、生き方に影響しているのは、偶然の人々との交わりかもしれない。
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「この街では、風は断続的に吹くのではなく、ひとつずつ大きな袋詰めになって建物にぶつかってくる。古いサッシ窓の鉄枠が揺れ、今にも雨が吹き込んできそうな音をたてて、球体の風と線状の風が複雑に交じり合う。都心の高層ビル群の下ともまた別種の巻き方をするのだ。小さめの底の、まだぬくみの残る小さな空き缶がいくつも、転がるのではなく筒の底の円周の一点を支えにして床運動のように勢いよくはねあがりながら移動してゆく。」
それと面白いと思ったのが、呼び起こされる記憶が、いつも接している家族や周囲のひとではなく、全く忘れてしまったような偶然であった人や、」偶然の出来事の記憶ばかり。
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| 古本読書日記 | 05:55 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑