fc2ブログ

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

アンソロジー   「恋の聖地 そこは最後の恋に出会う場所」(角川文庫)

 七人の女性作家が、日本各地の「恋の聖地」を舞台に描き出す、恋愛のアンソロジー。

窪美澄の「たゆたうひかり」が印象に残る。

 主人公の真奈美は、雑誌編集者。締め切りに追われ深夜すぎまで時には徹夜もする過重労働職場で働いている。
 母から、父が病気になり入院していると電話があり、仕方なく生まれ故郷の信州下諏訪にやってくる。
 そこで町役場に勤め婚活担当をしているおじさんに女の子がドタキャンし、代わりに出席してほしいと懇願されしぶしぶ婚活プロジェクトに参加する。場所は霧ケ峰の八島湿原。

 八島湿原に行く。集まった婚活男女には観光ガイドがつく。そのガイドが中学同級生だった滝本。滝本は大学卒業後就職するが会社をやめアルバイトをしながら、貯めたお金で世界を放浪した。しかし砂漠のような土地ばかりで、自分の住む場所は山がり湖もある故郷の高原だと思い帰国。八島湿原の御射山ヒュッテで暮らし観光ガイドをしている。

真奈美は東京に帰り、会社で深夜仕事をしていると滝本からメールがくる。今日の八島湿原報告とヒュッテから撮影した写真が添付されている。真奈美は自分は心身をすり減らし、深夜まで仕事をしているのに、滝本は八島湿原でのんびり仕事をしている。

 八島湿原で話したとき、この人だったら何でも話せると思いつい愚痴をいう。
「あんなにきれいな場所で仕事をしている滝本君にはわからないでしょう。広い空、美しい花、山や虫、毎日きれいなものを見て、心が洗われてちっともストレスなんてないでしょう。
毎日人の顔を見て、空気を読んで、嫌われないように、衝突しないように、神経をすりへらして。そんな経験滝本君にはないでしょう。」

 この後の滝本君の言葉が最高にすばらしい。
「山には山の愁いあり、海には海の悲しみや。」
私も故郷にいたころしょっちゅう口ずさんでいた「あざみの歌」である。

真奈美さん。苦労はあなただけではないよ。殆どの人はどこで暮らしていたってみんな哀切を背負って生きているのだよ。「あざみの歌」のように。 

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 06:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT














PREV | PAGE-SELECT | NEXT