fc2ブログ

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

佐藤多佳子   「ごきげんな裏階段」(新潮文庫)

 私たちの子供の頃にはゲーム機もスマホも無い。子どもが最初に触れるのは絵本。そして少しおおきくなると 漫画か童話。小学生ともなると、中には強者がいて、漱石や鴎外などの文学作品を読む子供もいたが、大多数は童話や少年少女文学。そして、魔女やお姫様が活躍するような憧れのファンタジー作品は多くはヨーロッパとりわけイギリスからやってきた。

 佐藤さんはどっぷり当時の童話にはまり、それが強く刷り込まれた作家のように思う。
 この本には、アパートの不思議な裏階段を舞台にして3篇の作品が収められている。
いずれも楽しい作品。

 裏階段にはえているたまねぎが大好きな猫。たまねぎならば幾つでも丸ごと食べてしまう。その猫がある日顔が玉ねぎのような顔になる。玉ねぎは剥くとどんどん小さくなる。この猫は洗うと小さくなってしまう。そしてバターボールやビー玉くらいになる。こんなに小さくなると、探すのも大変。踏みつぶすことが無いように、抱いて寝る時も注意せねばならない。

 こんな玉ねぎ猫が、間違って大好きなオニオンスープに落ちてしまう。それから、どんなに探しても小さなたまねぎ猫はみつからない。主人公が嘆き哀しんでいると、裏階段にはにんじんがはえてきて、ニンジン大好きな猫が登場する。

 2つめの話。裏階段にはクモがいる。クモの背中には二本の線の模様がある。暗い緑の線と明るい緑の線。この2本の線は笛になっている。暗い線の笛は、それを吹くと、一日不幸な出来事に遭遇し、明るい線の笛は幸なことばかり起こる。でも、クモは明るい線の笛はなかなか吹いてくれない。ここぞというとき吹いてくれた。おかげで、いつも主人公をダメ生徒とこきおろしていた先生がはじめて褒めてくれた。もちろんそれでクモと仲良くなったわけではないが、気持ちは幸一杯になった。

 最後の話。裏階段には煙男がいた。煙男は煙を吸うことによって成長する。しかし最近は禁煙運動で煙が吸える場所が少なくなった。このことを気の毒に思った父が、煙草が好きな人ばかりがいるバーに連れてゆく。どんどん煙男は煙を吸うからバーの空気はいつもきれい。しかし、煙男はバーを追い出された。客は煙草の煙がもうもうとしている雰囲気が好きだったから。

 どの話も、佐藤さんの童話が大好きという思いが伝わってくる作品ばかりだった。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ



| 古本読書日記 | 06:26 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT














PREV | PAGE-SELECT | NEXT