fc2ブログ

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

前野ひろみち   「満月と近鉄」(角川文庫)

 前野さんの実家は奈良で手広く畳屋を経営して成功している。前野さんは長男で両親は畳屋を継いでくれることを、切望している。しかし、前野さんはどうしても小説家になりたかった。父親はまさか小説家になる才能は無いだろうと思い、受験浪人している時に6か月の期限を区切って、生駒山の麓、宝山寺参道を5分ほど登ったところにあった「蓬莱荘」というアパートを借りてやって、そこで小説を執筆する環境を整えてあげる。但し、6か月がんばっても目がでなかったら諦めて、大学は行かせてあげるが、その後は、畳屋を継ぐという条件で。

 そして、お父さんの思惑通り、今は2人の子持ちとなって畳屋を継いでいる。
その6か月間に紡いだ4作品がこの本には収められている。
どの作品も、同じ奈良出身の森見登美彦や万城目学に作風は近いが、両大作家より中身は突き抜けていて、前野作品のほうが圧倒的に面白い。

 特に2作目の「ランボー怒りの改新」が素晴らしい。
大化の改新とベトナム戦争を重ね合わせ、そこに接着剤として英雄ランボーが活躍する。破天荒なのだが、史実を破綻させずに見事に融合させている。

 3作目の「ナラビアンナイト 奈良漬け商人と鬼との物語は「アラビアンナイト千夜一夜物語」の手法を奈良に持ち込んで妖しさに見事に覆われているし、冒頭の「佐伯さんと男子たち1993」も恋にあこがれる中学生を奈良の鹿の生まれ変わりのような女子中学生佐伯さんが幻惑させる初々しい作品に仕上がっていて微笑ましい。

  そして最後の作品「満月と近鉄」では、冒頭の作品に登場した佐伯さんが、妖しい美女となって登場し、次々書かれる前野さんの作品をだめだしして前野さんの作家になる夢を潰す。

  どうもお父さんの策略だったらしい落ちがつく。前野さんは、佐伯さんに取り込まれ、初めて女性に抱かれる。しかし最後は何もなかったがごとく、佐伯さんは泡のように消え去る。

 抱かれた後、佐伯さんが前野さんに聞く。
「どうして、この小説は『満月と近鉄』と言うの」
前野さんが答える。
「満月は佐伯さん、近鉄は僕や」
この青春の純朴さがたまらない。

 実は、佐伯さんは奈良でスナックを今でもしているそうだ。このスナックに旅をしていた作家の仁木英之がふらりと訪れ、その店にあった前野さんの作品を読んで、驚愕して、そのことが本出版につながった。

 仁木の偶然が無かったら、名作が埋もれて世にでることは無かった。この偶然がうれしい。
前野さんの作品をもっと読みたくなる。しかし畳屋に集中してもう小説は書かないと宣言している。とても残念。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT














PREV | PAGE-SELECT | NEXT