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津村記久子    「ポースケ」(中公文庫)

 ヨシカが経営している、近鉄奈良駅近くの小さな商店街にある「キッサ ハタナカ」に勤める店員や、常連客たちのヒューマンドラマ短編集。

 タイトルの「ポースケ」とはノルウェーで行われる復活祭。物語ではヨシカが企画して常連客を含めて関係者が食べ物を持ち寄ったり、出し物を演じたり、最後にヨシカがこしらえる料理を楽しむパーティのこと。

 この作品は実に不思議。常識の逆張りをしている。一般社会の生活からこぼれおちる。それで生活は苦しくなるから、アルバイトでもなんでもして生活費を稼がねばならない。だから、普通は心は辛く、すさぶ。

 そんな底辺に近い暮らしをしている人々が多く登場するのだが、全くそれに悩んでいる姿は無く、そこから脱却するとか、更に落ちるということもなく、与えられた環境のなかで暮らし続ける。

 佳枝は28歳。会社でモラハラにあい、辛くて会社を退職。そして、「ハタナカ」に早番としてアルバイトで勤める。睡眠障害があり、家から2分で通えるのに、その間で寝込んでしまう。夢を見ると、会社をやめたはずなのに、会社でモラハラを受けている夢をみてうなされる。しかし、その悩みを病院に行ったりして何とかしようということは一切しない。アルバイトから脱却しようとも思わない。一般の人たちと違うのは、朝3時に起床してBSの国際ニュースだけが社会世間の情報源というところ。身近な情報から距離を置いている。

 十喜子は配送会社にパートで勤めている夫と他に息子が2人と一人の娘。長男は東京にでて暮らしているが失踪してしまう。次男はひきこもり。長女亜矢子は大学3年生で就活真っ最中。

 亜矢子は入社試験を山のように受けても一社もひっかからない。会社によってはSNSをみて受験者のことを事前に知識を得ていることもあることを知り、十喜子は内緒でSNSに受験が有利になるようなエピソードをあげて応援している。
 しかし、多分来年の今頃も同じように就活をしているような確信が読者に出来上がっている。

 夢だとか希望、成長だとか物語ではそこに向かって頑張る姿や逆に落ち込み、卑屈を描くが、現実はそんなことはあまりなく、現状を受け入れて懸命にもがきながら日々は通り過ぎてゆくものだとこの物語で津村さんは語る。

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| 古本読書日記 | 06:32 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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