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保坂和志    「季節の記憶」(中公文庫)

 谷崎潤一郎賞、平林たい子賞、ダブル受賞作品。購入して少し悔いがでた。保坂は超純文学作品を書く作家。更に解説が難しいことをさらに難解に表現する解剖学者の養老孟司。
これは読み終わるのに数日かかるか、理解不能で途中で投げ出すんじゃないかとすでに読む前から身構える。

 登場するのは、会社をやめ地元鎌倉で、コンビニ本をせっせと書いているライターの中野。
コンビニ本というのは、安直なハウトゥー本で、主力の販売先がコンビニ。最近中野が書いて出版した本は「セックスと快楽の関係」。

 それから彼の息子で5歳の圭太。名前がうまく発音できず「クウ」と発音するからクウちゃん。必要ないということで保育園、幼稚園には通っていない。母親は離婚しておらず、家はクウと父親中野の2人暮らし。

 中野の家から3軒隣の、松井は便利屋をしている。20歳年下の妹美沙が便利屋を手伝っている。
 これに離婚して鎌倉に戻ってきたナッちゃんと娘で圭太と同い年のつぼみが登場する。

物語は、中野親子に松井兄妹、それにつぼみが中心になって描かれる。
 これに、かっての中野の会社の同僚の二階堂と学生時代の友人で今南紀白浜の宿泊施設の清掃会社をしている蛯乃木が加わる。

 中野も松井も36歳。普通の社会人だったら30代半ばは家庭も仕事も多忙で、日々を必死にこぎ抜き頑張っているとき。
 しかし、誰もが、そんな世の中とは遊離して、超然とした暮らしを営む。

中野と圭太は毎朝7時に起床、朝食を食べ、そして美沙や松井を誘い、近場の海や山に散歩にでる。更に松井やナッちゃんを含めしょっちゅう夕食を共にする。これに時々二階堂が加わる。そんな中でなされる会話の内容が哲学のようであり、個々の人間の世界観、自然観がテーマとなる。ここが保坂の真骨頂。しかし36歳で、こんな会話を楽しむ人を、凡人の私には想像がつかない。

 こんな会話が果てしなく展開される。
「自分を『自分』だと思っているのは、たんに自分が自分でない者の感じていることを感じられない」からだろう。俺が蚊に喰われたって美沙はかゆいと感じないだろう?俺という個体と美沙という個体が別々だかだよ。そういうことを知っていく過程でうまれたのが『自分』なんだよ。」
 しかし、この本のタイトルにもなっている「季節の記憶」についての説明は説得力がある。
「年を重ねるっていうことは季節の記憶の層が増えていくことなんだよ。

 『自分にはまだ若さがある』とか『青春のシッポが残っている』とか思ったとしても、それは逆なんだよ。年をとっての季節の記憶―そういう種類のズレなんだよ。」

 春に恋をする。恋をしたときのときめき、感情のたかぶり、そして恋が安定期にはいる。その時のことは記憶に残らない。しかし秋に恋が破綻する。そのときの嘆き、辛さ。

 恋が生まれた時、破綻したときそのことだけは季節を背景にして、年老いてもずっと心に強く記憶される。それがズレ。
 よくわからないところもあるが、思わずその通りとうなずく自分がいる。

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| 古本読書日記 | 06:45 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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