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高樹のぶ子   「オライオン飛行」(講談社文庫)

 1936年飛行士アンドレ・ジャピーはパリから東京まで100時間以内で到達すればフランス政府が破格の30万フランを与えるという宣言に応じて挑戦する。当時アンドレのライバル飛行士に「星の王子様」のサン・テグジュペリがいる。

 アンドレは日本に到達できたが、九州の背振山付近で悪天候に遭遇、飛行機は墜落する。アンドレは、重傷は負ったが命は助かり、九州帝大医学部に収容される。ここで、専用看護を指示されたのが桐谷久美子。

 アンドレを世話する。ベッドで体を起こしたり、ベッドからの上げ下ろしのためには、久美子は全身を使わねばならない。そうなれば、アンドレと体全体の接触をすることになる。それを繰り返していると、アンドレがキスをしてくる。いけない、拒みたいと思うのだが、言葉が通じない。そして、しばらくすると体の関係が生まれる。

 もし言葉があったら、拒否をするだろう。体の関係になる前、恋の言葉での交換があり体の交歓に進むだろう。

 高樹さんは、久美子に物語でこう言わせている。
 
 セックスでの接触なんて、わずかな面積しかないのよと自分に言う。快楽の坂を駆け上がれば、それも終わるのです。快楽の記憶は残るけれどやがてきっと忘れるのだわ。

 言葉があるから、恋は思い出として、苦くあっても、楽しくあっても残る物。体だけの関係は、食べたり、寝たりすることと同じで、どんどん忘れてゆくもの。さすが恋愛物語の女王高樹さんの深い言葉だ。

 いくら愛し合っても、2人は別れざるを得ない。これが、久美子にはあまりにも悲しい。
それで、思わず「せつない」とつぶやく。アンドレには意味がわからないし、いくら久美子に意味を聞いても、久美子も説明できない。

 それでアンドレは久美子の「せつない」こそ愛の表現だと思い込む。
この「せつない」が物語の軸として最後まで貫かれている。

「せつない」をこれだけ見事に表現した物語はあまりない。

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| 古本読書日記 | 06:02 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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