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岡本かの子   「越年 岡本かの子恋愛小説集」(角川文庫)

 岡本かの子短編恋愛小説集。筑摩書房の全集を持っているので、殆どの作品が既読。名作「老妓抄」や「家霊」も素晴らしい作品と思うが、以前に紹介したかもしれないが、掌編「気の毒な奥様」が洒落が効いていて面白い。

 ある繁華街にある映画館の窓口に、突然駆け込んできた女がいる。わなわな震えながら、窓口の少女に訴える。

 「私の主人が恋人と一緒に、ここに来ていることを知りました。家では急病で子供が苦しんでいます。その子供をかかりつけのお医者に頼んで置いて、私は夫を連れに飛んできました。どうか早く夫を呼び出してください。」

 少女は、夫の名前を教えてくれと頼む。しかし、奥様はそれだけは勘弁してと言う。しばらく少女と奥様の間で押し問答が続くが、少女は奥様を気の毒になる。別の少女が気をきかして、立て看板をもってきて、観客が見えるように、舞台の脇に次のように書いて置く。

 「恋人を連れた男の方、あなたの本当の奥様が迎えにいらっしゃいました。お子様が急病だそうです。至急正面玄関へ。」
 すると数十人の男が正面玄関に現れた。
 岡本かの子は、水をごくごく飲むという表現などを、ごくりごくりと3文字にすることが多い。そして、その3文字の使い方が実にうまい。

 「家霊」で、お金のない彫金師の徳永老人が、食堂「いのち」にいつもどじょうを無心に来る。これを店番をしているくめ子が嫌う。その後、徳永老人のどじょうの食す描写が、老人の心根の変化とともに見事。

 「人に妬まれ、蔑まれて、心が魔王のように猛り立つときでも、あの小魚を口に含んで、前歯でぽきりぽきりと、頭から骨ごとに少しずつ噛みつぶしてゆくと、恨みはそこに移ってどこともなくやさしい涙がわいてくる。」

 この「ぽきりぽきり」が実に効いていて、感動させる。

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| 古本読書日記 | 06:37 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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