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薬丸岳    「Aではない君と」(講談社文庫)

 いじめを苦にして自殺するという記事が、当たり前のように新聞や雑誌にのる。今や不感症のようになり、事態に敏感に反応しなくなった。

 自殺した子は、いじめた子を憎悪し殺したかったに違いない。よく残された遺書やメモにそんな気持ちが書かれている。
 しかし、いじめられた子は、いじめた子を殺すことはできなくて、代わりに自分を殺してけじめをつける。

 この物語の中学生翼は、父親が弁護士である同級生優斗とその友達2人に虐められていた。父親が弁護士からなのか、苛めは裁判ゲームというものだった。

 常に被告は翼で、裁判官は優斗。そして後の2人が検察と弁護士だった。
 被告は、犯罪の刑として、万引き実行や他の生徒を殴るという刑罰を命じられる。それを実行すると、夕方裁判があり、万引きについて裁判をする。そして、また別の刑罰を与える。

 それが毎日繰り返され1年間も続いた。

最後は翼が飼っているペロを殺すことだった。ペロの首にひもを回してそれを、優斗と翼が引っ張って絞め殺す。それを携帯で撮り、ネットに流す。それに、完全に耐えられなくなり、翼は優斗を刺し殺す。そして逮捕される。

 父親の吉永が面会に行っても、翼は何も話してくれない。その面会の中で唯一翼がしゃべったこと
 「心と体とどちらを殺すほうが悪いの」
 吉永が答える。
 「それは体を殺すことが悪い。人を殺すことは、何よりも悪い。」
 この言葉で、さらに翼は心を閉ざしてしまう。

この重い言葉に、人の命ほど大切なものはないという何の心にもひびかない標語のような言葉ではなく、薬丸は苦闘しながら、魂が響く解決をこの物語で提示している。

 作家には2通りの人がいる。

想像力、妄想力が際立って優れ、それを縦横無尽に展開して物語を創る人。
そうではなく、テーマを決め、それに対し徹底的に現場で広く、深く調査をして、そこから物語を創り上げる人。

 薬丸は後者のタイプだ。こういう作家は、テーマの幅が狭くなる傾向にある。しかし、同じテーマであっても、認識、思考の深さは大きい。だから、どの作品を読んでも読者に深い感動を与える。

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| 古本読書日記 | 06:16 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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