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黒川博行   「迅雷」(文春文庫)

 ブックオフで黒川作品を何冊か購入。しばらく黒川の関西エンターテイメントに浸る。
 黒川は推理小説、業界物、猟奇物、ハードボイルドと幅広いジャンルで作品を発表しているが、この作品は誘拐物に分類されるらしい。

 誘拐といっても、子供や女性が誘拐され、それに警察や探偵がたちむかうというありきたりな小説を黒川は書かない。

 紹介した小説でも、社会の底辺で彷徨う、最も弱者に分類される3人が、何と暴力団の組長を誘拐。暴力団に対し挑むという物語になっている。事実、3人のうちの一人友永は、いつも、こんなことをしていていいのだろうかと煩悶し、気弱な面をさらす。

 関西以外、特に東京を地盤にしている作家には、あまり人間性が晒しだされる作品は無い。

しかし、黒川の作品は、登場人物の気性、弱さ、それによる揺れが物語の根底を流れる。そこで交わされる会話が秀逸で味わい深い。

 人質にした暴力団組長緋野を、誘拐した稲垣、友永が脅迫し痛めつける。さすが組長といえども耐えられない。稲垣が友永に言う。
 「緋野の手、ひどいしもやけになっとるな。指がバナナみたいに膨れとる。」
 「無理もない。まる2日間、後ろ手にしばられとるんや。」
 「ほんまに気の毒やな。」
 稲垣はさもおかしそうに笑う。
 「片方の眉毛はない。指はバナナ。腰から下はおのれの小便でびしょぬれ。わしが緋野なら胃に穴があいとるで。」

 人質に対して、心を通わせるような物言いは、黒川作品以外では見当たらない。誘拐した側の弱さ、人のよさ、さらに暴力団組長なんていうとんでもない男を誘拐してしまったというおののきが表現されている。

 3人組のひとりケンが暴力団に誘拐されている。おそらくボロボロに痛めつけられているだろう。そのケンを救ったら病院に連れて行かねばならないが、普通の病院には行かれない。

 友永が稲垣に言う。
 「どこで治療するんや。あてはあるんかい。」
 「ないこともない。わしの昔の連れに医者がおる。」
 「それは心強いな。」
 「腕は悪うない。医者のくせにしょっちゅう西成の常盆にでいりしとる。」
 「何の医者や」
 「獣医だ」
 「・・・・・・」
 「さ、倉庫へ戻ろう。夜が明けるがな。」
 稲垣は短い欠伸をした。

この「・・・・」と「短い欠伸」は見事だ。登場人物の息使いが、ページの中から立ち上がる。

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| 古本読書日記 | 06:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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