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今村夏子   「こちらあみ子」(ちくま文庫)

 芥川賞を受賞した今村夏子のデビュー作。
面白い。型破りだ。あまたの作家では思いつかない発想。

 いじめはいけない。友達もできず、みんなから無視され、カバンや靴が捨てられたり、隠されたりする。耐えられなくなり、自らの命を絶ってしまう。そんな悲しいことが、世の中では繰り返されている。

 こんな悲劇を生じさせるのは、いじめられている生徒が、学校で、社会で何とか他人とかかわりたいと望むのだが、それができるどころか、かかわるべき他人から徹底的に排除されることに人生のむなしさ、生きている価値を失うと思うからである。

 それでも、今の社会で何とか生きようとする。

しかし、そんな社会の外側にいたら、そんな社会の内側にいることに価値をおかない人がいたらどうなるのだろうか。こういう発想はなかなか生まれてこない。

 この作品の主人公あみ子はそんな存在だ。

 両親は子供に関心が無い。世の中を生きていくための規範など教えることはない。何しろ両親が離婚して、父親に引っ越すぞと言われ当然父親があみ子を引き取るのかと思ったら、
祖母のところに行かせて、自分は別の女性と再婚してしまう。

 こんな両親だから、あみ子は学校へ行くのも行かないのも自由。学校へ行っても全員があみ子から遠ざかる。風呂に何日も入らないことがあると、臭いとみんなが逃げる。そのことが、みんなから嫌われていることだとあみ子は全く感じない。

 学校で履く上靴がどこかに隠されたか捨てられたかして無い。それに全く頓着しない。ずっと裸足で通す。

 ノリ君という子に興味を抱く。いやがるノリ君と一緒に家に帰ろうとする。ノリ君は、あみ子を避けようとするが、しつこくあみ子がついてくる。極まったノリ君が、「あみ子は変わり者で悪い子だから、お話をしてはいけないと両親から言われてる。」と言う。

 保健室で2人きりになったときあみ子が言う。
 「好きじゃ」ノリ君が言う。「殺す」
 「好きじゃ」「殺す」が何回も繰り返される。
 あみ子は何とそれだけしつこく追いかけるのに、ノリ君の名前も苗字もしらない。

知ったのは中学の卒業式前日。張り出された習字に名前がある。しかし、あみ子は漢字がよめないからそっと教えてもらう。

 その日、坊主頭の子があみ子に声をかける。
 「みんなお前のことをしつこいし、大嫌いだった。」
 「どこが気持ち悪いねん?」 
 「そんなこと100億個もあっていえない。」
 「100億個でいいから、教えて」
 「それは秘密」

これだけが、あみ子が中学生を終えるまで、まともに他人とした会話。それでいて、あみ子は何の不自由も感じていないし、哀しくも、切なくもない。

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