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角田光代    「平凡」(新潮文庫)

 あの時、ああしなくて、こうしていたら自分の人生はどうなっていただろう。忘れたはずだと思っていたことが、年齢を重ねたある時ふと思い出し、ずっとどうなったか想像ばかりするようになる。

 人生の岐路といえば大げさになるが、ずっとチクリと残っていることから紡ぎ出された短編6編を収録。

 泰春は冬美と結婚して5年が経過している。多少の摩擦はあるが、平穏な生活を送っていると思っている。ところがある日突然冬美が離婚してほしいと離婚届をさしだす。

 晴天の霹靂。そんな兆候素振りは全くなかったが、もしやと思い探偵事務所で調査したら、浮気の相手がいた。しかも相手の男は家庭持ちだったが先月離婚が成立、それで離婚届が差し出されたのだ。

 荒れた泰春は、バーで酔いつぶれ、マスターの「閉店です」の言葉で未明にバーをでて、タクシーを拾う。中年の女性運転手だった。渋滞にまきこまれたこともあり、運転手が昔の話をする。

 若い免許とりたてのころ、飛び出してきた少年を轢いたことがある。救急車が呼ばれ少年は病院に搬送される。打撲はたくさんあったが、大きなケガは無かった。

 運転手は自分の人生はこれまでと思い観念したが、何と被害者が被害届をださないと警察から言われ、罪にならずに済んだ。救われたと思った。贅沢な人生ではなかったが、平凡な人生をここまでやってこれたと感謝の気持ちがあふれた話だった。

 泰春は仰天する。自分が6歳のとき車にはねられ、病院に運ばれた。意識をとりもどしてしばらくすると女性警官がやってきて、別室で轢いた人を許すか、許さないか聞かれた。

 許さないと答えると何か恐ろしいことがおきるような気がして「許す」と答えた。
その時の事故を起こした運転手に20数年をたって再会したのだ。

 冬美と相手の男が憎かった。絶対離婚なんかするものかと思った。

ある日、自分の部屋に帰ると、冬美の持ち物がなくなっていた。冷蔵庫の上に体温計のようなものが置かれていた。妊娠検査薬だった。

 泰春と冬美の間には子供ができなかった。冬美の体を調べさせたが問題は無かった。
その検査薬は青色になっていた。青は陽性、妊娠したことを示していた。

その時、怒りがすーっと引いた。そして泰春はつぶやく。
 「許す」と。
離婚届に判をおし、冬美のところに送った。そして思う。
 「元気な子を産んで、幸せになれよ」と。

この物語に、母親の結婚にまつわる味わいあるエピソードが挟まれる。角田さんは現在屈指のストーリーテラーである。

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