FC2ブログ

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

中村文則    「私の消滅」(文春文庫)

 人間の存在とは何だろう。アリストテレスは神に変えられないのは過去だけだと言ったそうだ。今の自分は過去の記憶の蓄積により成り立っている。過去に辛く悲しい経験をすると、それがこれからのその人を損なうことになる。何と人間とは理不尽なものなのか。

 ところがハンガリーでこんな事例がある。囚人に5時間ずっと腕を上げ続けろと命令する。途中で腕を下ろすと、罵倒され、暴力を受ける。

 それはいやだからと、頑張って腕を5時間上げ続ける。それでも、同じように罵倒されきつい暴力を受ける。その暴力を受けながら、お前は何で人を殺したのかと看守に言われる。
わからないと言うと、ずっと暴力を受ける。

 すると、囚人は、知らないうちに自分が人殺しをしたと提案するようになる。
そこで、看守はおいしいチョコレートを与える。すると囚人は自分が認められ優しくしてもらったとうれしくなり、詳細に事件のことを語りだす。その詳細は、確実に彼の記憶となって脳に刷り込まれる。

 ゆかりは、幼いころ、養父に暴力をふるわれ、犯される。母親も同じように暴力を振るわれ人生に絶望して、自殺する。

 ゆかりは家をでて、街を彷徨い、男相手に売春をする。その売春の過程でも、男に暴力を振るわれる。絶望に陥ったゆかりは、精神異常をきたし、精神病院に行く。その精神病院で2人目の医師である主人公の小塚に出会う。

 小塚は、催眠療法とECT電気ショック療法を施し、彼女の過去の記憶をすべて違う内容に変えようとする。しかも、彼女が美しく、恋心を抱いた小塚は、自分が彼女を救ってあげると刷り込む。

 そして、それは成功したかに思えたが、過去に暴力を振るい強姦した間宮と木田が現れ、その時のDVDをゆかりに見せる。すると、切り替わったはずの記憶が、また元の記憶に戻り、ショックを受けたゆかりは首をつって自殺する。

 怒り狂った小塚は、間宮と木田を合法的に殺害しようとする。

強い薬と電気ショックを施し、お前は木田や間宮ではなく小塚だと刷り込み、小塚は間宮、木田を殺害すると刷り込む。つまり、間宮や木田は小塚になり、自分の命を自分で断ち切ることをさせるため。

 しかし、なかなかうまくいかない。何とか木田は自害した。しかし間宮は小塚にならない。それで小塚にさせることは諦めたのだが、同じように、間宮、木田に憎しみを持つ、喫茶店店主の和久井が諦めず、おまえは小塚だと吹き込む。しかし、うまくいかず諦める。その4日後に間宮は自害する。

 これが記憶のすり替えに成功して実現したことなのかは物語では語られていない。

 物語は心理学の本を読んでいるような印象があり、難しい。しかし、最後にミステリーにもなり、とんでもない黒幕が明かされる。でも、やっぱりとっつきにくく難解な物語である。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


 


| 古本読書日記 | 06:02 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT














PREV | PAGE-SELECT | NEXT