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アンソロジー   「オトナの片思い」(ハルキ文庫)

 片思いの様々な風景を集めた短編集。

印象に残ったのは角田光代の「わか葉の恋」。

女性は特に若いころは、一人で食堂や、飲み屋に入り、酒や食事をとることはしない。会社での昼食でもそうだ。いつも、友人や仲間、恋人と食事やお酒は楽しむ。たまに、一人で飲食をせねばならない時には、自分の部屋に帰り、自炊か、インスタント食品ですます。

 主人公の友佳、文房具会社に勤めている。17歳の時から、付き合っていた恋人と結婚するだろうと信じていたが、27歳の時、恋人から新しい恋人ができたと告げられ、別れる。ショックでストーカーまがいの行動までした。

 33歳の時に、友達の紹介で田村芳明と会う。それほど好きということでは無かったが、結婚をする。しかし、家庭生活で些末なことでしょっちゅう言い合いとなり、芳明から「君とは生活できない」と離婚を求められ承諾する。

 ある晩、一人でアパートに帰る途中の食堂「わか葉」から流れて出るいい香りに誘われ、思い切って扉をあける。カウンターに座り、ビールとかつ丼を注文。一人食事が気にならなくなり、そこからちょくちょく夕食に立ち寄るようになる。今では、黙って座ればビールがだされかつ丼が作られる。

 そんな状態が続き。今や友佳も41歳になる。

そしてある日、時々店で会う、いつも一つ席を空けて座る青年の注文と友佳の注文の品を間違えて店でだしてから、互いの顔をみつめあい、友佳は青年に一目ぼれをする。そして、駅で偶然に会うと互いに挨拶をする。その挨拶が、友佳にはうれしくてたまらない。

 友佳が友人に言う。
「だれか好きになったらその人とつきあうことを考える。付き合い始めたら、いい関係でいられることを望む。つきあいが長くなったらマンネリ対策を考える。結婚したら生活がはじまる。恋愛ってさあ、前に前に進んでいかないといけないような気になるんじゃないの。そういうの、とりあえず今はいいやっていうか、前にも上にもいかないでここにいればいいや。」

 友佳は友人とデパートに服を買いにゆく。若い時は素敵な服があっても、先立つものが無く買えない。今は、まとめ買いもできるくらいのお金の余裕がある。

 あいさつをするだけの青年のために、一生懸命服を選ぶ。それだけでいい。でもそれが楽しい。確かに友佳は今恋をしている。

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| 古本読書日記 | 05:56 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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