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井上荒野    「ヌルイコイ」(光文社文庫)

 井上さんの小説は、この作品もそうなのだが、普通ではこんなことが起こったり、こんなひどい状況においつめられたら、驚愕し、恐れ、大騒ぎするようなことを、気だるい薄い膜で全体を覆い、抵抗したり、感情的にもならず、その流れにそのまま身をまかし茫漠とした雰囲気で物語が進行する。

 主人公のなつ恵は、芸能人マネージャーをしている夫と2人暮らし。童話作家を志し、童話作家の大御所と不倫をしている。大御所にも妻と子供もいる。大御所の呼び出しに応じてなつ恵は抱かれにでかける。

 隣町の銭湯に行ったとき、なつ恵が「鳩」とあだなをつけた青年に会う。その直後なつ恵は体の調子が悪くなり、医者に行きレントゲンを撮ると体は真っ白。医師はもはや手遅れ状態と言う。肉体関係は持たないが、「鳩」と競輪場に遊びにいったり、「鳩」の部屋にもいりびたる。

 「鳩」は大地主の息子で、家族はハワイ旅行からの帰り飛行機が墜落し、全員死亡。大きな遺産を引き継ぎ、何棟のアパートを持ち、働く必要のない人生を送っている。

 銭湯であうおばあさんたちは、あんなすけこましに付き合っていると最後に地獄に捨てられるよと忠告するのだが、なつ恵は一切耳を貸さない。

 「鳩」がつきあっているのは、なつ恵だけが若く、他は年老いたおばあさんばかり。しかたない、この町には年寄りしかいないのだからと「鳩」は言う。

 ふみ江さんというばあさんが自殺をする。それを聞いて「鳩」が言う。
「ふみ江が死んだのは自分に責任がある。抱いてやらなかったからだ。無理をすれば、セックスはできたのに。」ととんでもないことを言う。

 童話作家は不倫がみつかり家族のもとに帰る。夫は家をでる。「鳩」との関係も明日が見えない。そして自分は末期ガン。もう人生などいらないと思っても不思議が無いのだが、なつ恵は淡々と日々を送る。

 しかし、最後に物語はどんでんがえしを用意している。この部分だけ、著者井上さんには珍しく、感動に揺さぶられる表現になっている。

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| 古本読書日記 | 05:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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