fc2ブログ

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

アンソロジー   「あの街で二人は」(新潮文庫)

 七人の女性作家が、全国の恋人の聖地という場所を舞台にして、恋愛を描くアンソロジー。

私が働いていた会社がある浜松の温泉地舘山寺温泉を舞台にした山本文緒さんの「バヨリン心中」が印象に残った。

 物語の舞台は2065年。主人公の祖母遠子は、認知症にかかり、床に臥せっている生活をしている。その祖母が、主人公にポツポツと青春時代の話を始める。

 遠子は短大をでて、会社勤めをしていたが、そこを辞めて、静岡県で最も高いビルに入っている日本の老舗として有名なホテルに派遣社員で働いていた。そこに6,7人の宿泊客の西洋人が朝食にやってくる。

 その中の一人が、翌日遠子が展望回廊の受付をしているとやってくる。昨日の朝食時に少し心をときめいた男性だ。

 つたない英語でどこから来たのか聞く。ワルシャワからだと答える。浜松とワルシャワが姉妹都市で、楽器のワークショップを開催しているのでやってきているのだそうだ。名前はアダム。お互い名前を名乗りあい、遠子が浜松の案内をしてあげると誘う。

  そして休日を利用して、遠子はアダムを舘山寺温泉に案内をする。美しい浜名湖の風景にアダムは感激して声をあげる。そしてロープウェイに乗り、展望台に行く。そこにはオルゴールミュージアムがあり、恋人を幸にさせるというカリヨンがあり、自動演奏がなされる。

 感動したアダムは遠子にバイオリンを演奏してあげる。遠子は幸一杯になる。

 その夜、アダムを家に連れてゆく。両親はあまりいい顔をしない。しかし2人は肉体関係を頻繁に持つのは普通のことだ。そして遠子は妊娠してしまう。

 アダムは結婚しようと言う。しかし両親は許さない。アダムは土下座をしてひたすら両親に結婚を認めてくれるようお願いする。最後に父親が折れて「幸にしてやってくれ」と言う。

 2人は結婚して遠子の実家で楽しい生活をする。可愛い男の子にも恵まれた。

そして運命の日が訪れる。東日本大震災が起きる。大津波に飲まれる被災地域や、原発事故を放送するテレビをアダムは見つめる。

 そして、家を飛び出し、息子を連れてポーランドへ帰ろうとする。浜松駅でリムジンバスにアダムが乗る直前、軽トラで追いかけた遠子がバスに突っ込む。そしてアダムに頭突きをして血だらけになり息子を取り戻す。アダムはそのままポーランドに行ってしまい、それ以降会うことは無かった。

 遠子はその後、ワルシャワは原子力発電が大事故を起こしたチェルノブイリと近く、アダムがその時大きな恐怖を味わっただろうことを知った。

 主人公は、アダムと祖母から生まれた父親を見つめ、遠い異国にいる見たことのない祖父に静かに、強く思いを馳せる。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 06:36 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT














PREV | PAGE-SELECT | NEXT