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恩田陸   「蜜蜂と遠雷」(下)(幻冬舎文庫) 

 この作品は、恩田7回目の挑戦で念願の直木賞を受賞している。しかも同時に本屋大賞も受賞。恩田は、「夜のピクニック」でも本屋大賞を受賞していて、2度目の本屋大賞受賞。こんなことはかって無かった。

 この作品には4人の際立ったコンテスタントが登場。彼らのどの演奏も恩田の卓越した表現力で読者は素晴らしさを満喫できるが、それでも存在感は圧倒的に風間塵にある。

 風間塵がどんな行動をして、次にどんな曲を選択、どんな驚愕な演奏を披露するか、その興味と興奮が読者を引っ張ってゆく。

 彼が師事し、芳ケ江国際ピアノコンクールに送り込んだ、逝去したばかり巨匠音楽家のユウジ・フォン・ホフマンが彼に言っている。
 「狭いところに閉じ込められている音楽を広いところに連れ出せ」と。

 殆どすべての演奏者は、作曲家の意図を理解して、曲の方に自分を引き寄せて行く。作曲家が何をそのときイメージしていたか、当時の時代風景や、作曲家自身が何からインスパイアされたのかを調べ、作曲家のイメージにできる限り近付こうとする。

 しかし風間塵は全く異なる。曲を自分に引き寄せようとする。というより、曲を自分の世界の一部にしている。曲を通して自分の世界を再現する。

 コンクールの審査員をしている一流音楽家たちは、クラシック音楽の伝統的岩盤の視点から審査をする、その伝統を破壊する演奏は、強く拒絶する。

 しかし、困ったことに、風間塵の演奏をもう一度聴きたいという衝動に襲われる。彼を落としてしまうと、最早彼の演奏を聴くことはできない。
 その逡巡が、何とか彼の予選通過を実現させる。
そして、恩田はクライマックスでとんでもない衝撃を創る。

 第3次予選で、風間塵は大きな曲の初めと途中にエリック・サティの「あなたが欲しい」を差しはさんだ。同じ曲を何回も弾くことは、ルール違反になる可能性が強い。

 第3次予選の審査結果の発表がなかなか始まらない。結果発表を待つ間に聴衆に「失格者がでたらしい」との噂が流れだし、だんだん大きくなる。

 ここを読んで、私は衝撃を受け胸が縮んだ。失格になるとしたら風間塵しかありえない。風間が最終本選に行けない。コンクールのクライマックスは最終本選。そこに風間がいないなんて気の抜けたビール状態になってしまう。

 そこで、遅れに遅れた審査発表。固唾を飲みながら読み進む。そして失格者は別のコンテスタントで、風間塵は最終本選に残る。まったく脅かさないでよ恩田さん。

 最終本選は、結果発表場面はなく、審査員だった元夫婦の、イサニエルと三枝子のバーでの場面に切り替わる。
 だから結果はわからないが、風間塵が3位だったことだけが明かされる。

 そして、最終シーンは夜明けの砂浜にいる風間塵である。音楽、ミュージックは、神々の技ミューズが語源である。そして風間こそが、ミュージックであると高らかに宣言されて物語は閉じる。やはり、この作品の主人公が風間塵だったことを再確認して幸一杯の気分で本を閉じる。

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