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安部譲二    「つぶての歌吉」(朝日文庫)

 安部は、西部劇映画の大ファンだったのだろう。サンフランシスコの港で上陸した主人公の歌吉が目指す1600kmも離れたサンタフェ。これは映画「サンタフェへの道」を彷彿とさせるし、サンタフェから北部アメリカまでのワイオミングを通る道は「シェーン」を思い起こさせる。また最後に歌吉と探し求めたフランソワーズと出会うべき場所トゥームストーンの町はジョンフォードの名画「荒野の決闘」の舞台になった町。歌吉は途中アメリカの第七騎兵隊に加わりスウ族と戦うが、この騎兵隊は映画で有名なカスター将軍が率いている。

 こんな西部劇の中に、まだ江戸幕府時代の若者を投入させたら面白い小説になると、ワクワクしながら安部は作品を創りあげたと思う。しかも、その日本人はヤクザに属する、入れ墨入りの侠客。

 主人公の侠客つぶての歌吉は、乗っていた船が難破して、太平洋を漂流していたところをアメリカの船に救助される。

 事務長のアンリが、けん銃を手入れしていた時、銃が暴発。瀕死状態になる。船長に呼ばれ歌吉はアンリのところへ行くと、アンリより「サンタフェにいる娘にこれを届けてほしい」とガラス玉(実際はダイヤモンド)を渡される。その娘フランソワーの行方を追って、西部開拓の真っ只中のアメリカを駆け回る。

 発想は面白いのだが、中味は安部の自己満足に終わっている。

まず歌吉が生きていない。当然、言語、文化、慣習に彼我の差があり、それにより摩擦や混乱が起きるはずなのだが、江戸時代歌吉が当時のアメリカに溶け込み、全く摩擦や混乱が描かれない。別にわざわざ江戸時代の日本人にしなくても、普通の米国青年でも良い物語になっている

 西部独特の、小さな町の居酒屋情景が通り一遍でしか描かれず、戦闘場面が別にアメリカ西部が舞台でなくても通用する。

 西部劇大好きの安部の気持ちだけが空回りしている。
 アイデア倒れの作品になってしまっている。

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| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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