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森崎和江    「海路残照」(朝日文芸文庫)

 八百比丘尼伝説というのがある。重い病を患っていた海女が、ほら貝あるいは場所によっては人魚を食べたところ、完全に病が癒え、その後800年、癒えたときのまま老いることなく生きたという伝説である。癒えた海女は、多くの子孫にも先立たれ、それから生まれた村をでて旅をする。その間にたくさんの男と知り合うが、そんな男たちもすべてその死を見送り、最後津軽に着き、死に絶える。

 生まれた村は福岡県の玄海難の庄の浦、そこから同じ伝説がある、若狭の小浜、輪島、舳倉島、そして津軽十三・松前と伝説の地を訪ねる旅をエッセイにしている。

 この旅程の中でもうひとつの伝説が拾われる。
「うぶめ」の話。うぶめは、生きて生まれることができなかった赤子のことである。そんな赤子は海に流される。そして、海に流されながら懸命に「おぎゃあ」と鳴き声を発し続ける。

 海はそんな赤子だけでなく、膨大な数の亡くなった人たちが漂っている。海に生きる人はその漂っている人や赤子を拾い上げてきて、生きている家族より大切に祀る。

 赤子や漂っている人たちは、誰かが拾ってくれるのをずっと待っている。何百年と、拾い上げてくれるまで年老いることなくそのまま、まるで八百比丘尼そのものである。

 また、海はお母さんのお腹の中の羊水である。子供は、満ち潮の時でしか生まれない。満ち潮の力により海から体外に産まれてくるのである。

 こんな人間の根源に関わるいにしえからの伝説を、行く先々の人々から聞き、そして深く思索する。

文章が、実に美しく鮮やかである。その美しい文章の波に乗り、私も伝説の村を旅する。

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