FC2ブログ

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

小杉健治      「灰の男」(下)(祥伝社文庫)

 東京大空襲の開始日、今では3月10日ということで定まっているが、この作品と同様他でも読んだが、3月9日という説がある。

 これは、東京大空襲が始まって10分ほど後に、空襲警報が発令したため。その発令時間が3月10日午前0時8分で、それを空襲開始時間としているからである。しかし、10分前に空襲が始まっていたなら、空襲開始は3月9日午後23時58分になる。

 物語の信吉ともう一人の主人公伊吹には、異父の兄小原がいた。小原は新聞東日日報の客員記者をしているジャーナリストであり作家でもあった。そして小原は、3月10日に東京大空襲があることを事前に知っていた。

 そこで工作をして、当時の近衛内閣に戦争を放棄するよう上奏文を天皇に提出した。天皇も軍部も戦争は負けることは認識していた。しかし、敗戦宣言をする前に、米軍の大打撃を与え、戦後の交渉を有利にしようと目論んでいて天皇もそれに従いこの上奏を却下した。

 小原をスパイと定義できるか微妙だが、戦争中アメリカと通じ、早く戦争を終結しようとする活動家たちがいた。

 3月10日の東京大空襲が避けられなくなったことを知った小原たち活動家は、空襲は皇居や権力者がいる山の手は避けるようにせねばならないと考えた。

 東京は当時は灯火管制下にあり、真っ暗で戦闘機から地上が見えない。そこで小原たちは、空襲すべきところの建物を放火したり、懐中電灯を振ったり、電灯をともして戦闘機に教えた。

 つまり、10万人の庶民を犠牲にすることで戦争を終了させようとした。

 空襲5日後、天皇が空襲された現場を巡幸した。しかし、それまでに大量の死体は脇道に隠され、天皇は空襲の悲劇を十分認識しなかった。それで、戦争は続行することとなる。そして悲劇は広島、長崎に引き継がれた。

 この物語の核心は、小杉の想像からできあがっていると思うし、まさか、どこかの史料にこのことが書かれているのではないだろう。

 しかし、あり得そうなことのように思われる迫真の内容にぞっとする。それにしても10万人の被害者に対し、切なさがこみあげてくるし、愚かな権力者たちに怒りを禁じえない。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT














PREV | PAGE-SELECT | NEXT