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彩瀬まる   「やがて海へと届く」(講談社文庫)

 この物語で主人公の真奈が、高校生のカエルちゃんとキノコちゃんから聞かれる。
 「太平洋戦争について、どんな風に思います?」と。

 広島や長崎も含め、私たちは戦争の悲惨さを決して忘れてはならないと、学校でも、夏が来るたびに教えられる。

 しかし、今の高校生が戦争を体験しているわけではない。それどころか、お爺さんだってお祖母さんだって戦後生まれになっている。それなのに、悲劇、悲惨さなどと声高に語ってみても、全く身近に感じない。

 東日本大震災といっても、自らが被災していなければ、その時は大きな話題となっても、すぐに忘れてしまう。

 真奈は、高校生の2人に聞いてみる。
「もしあなたたちの一人が、災害にあって突然亡くなってしまうとしたら、亡くなった人は、残った人にそれからどうしてほしいと思う?」
「小学校の時とか、一番大切な友達が、転校してしまう。最初はショックを受けるが、すぐその友達のことは忘れてしまう。」

 彩瀬まるさんは、震災で大切な友達を失ったのではないかと物語を読んで思う。

だから、そのことを語り、物語にするために、震災から5年も要している。大切な人の死を現実として受け入れられるのに5年が必要だった。小学校の転校生とは同じとはとても思えなかった。

 震災のこと、ここまでリアルに描いた作家を知らない。次の描写を読むとその切実さがぐっと私を貫く。

 「逃げる、逃げなければ、でも道が無い。先ほどの分かれ道に戻るより先に、黒い水に追いつかれるだろう。・・・走る。足元が柔らかくてうまく走れない。全身が恐怖でびりびりと痛んだ。・・・
 曇り空を切り裂いて、甲高いサイレンが響き渡った。発令されました、ひなん、して、ください。・・・波がくる。視界の端を、黒い水が先行する。
 だめだ、死ねない、離れたくない。守られていた、すべてのものから引きはがされる。やっと少しずつ幸せになれたんだ。ここまでにくるまでとても長い時間がかかった。死ねない、死ねない、だって・・・」

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| 古本読書日記 | 05:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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