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パトリシア ハイスミス  「扉の向こう側」(扶桑社ミステリー)

 ハイスミス生まれはデトロイトだが「太陽がいっぱい」のリプリーシリーズのようにヨーロッパ中心に描く作家と思っていたが、当たり前だけどアメリカを舞台にした作品もあった。この作品がそんな作品。

 ハイスミスは、犯罪小説の書き手として、サスペンスの女王の称号が与えられている大作家である。偏執狂的な登場人物と陰鬱な雰囲気がその特徴で、なかなか日本では受け入れられないのではということでわずかな出版数にとどまっていたが、90年代に見直され、多くの作品が出版されるようになり、ちょっとしたブームとなった。

 この作品は従来のハイスミス作品と異なり、サスペンスの要素が薄められ、読みやすい青春物語、スミス異色作品となっている。

 主人公のアーサーはある地方都市の高校生。保険外交員をしている父とボランティア活動をしている母と弟の4人家族。

 弟がある日高熱をだし、これがずっとひかず、生死の境をさまよう。しかし、奇蹟的に助かる。これに感動した父親が「神が助けてくれた」と信じ熱心なクリスチャンになり、家族にも信仰にのっとった生き方を強要する。

 これに反発していたアーサーが同じ高校生のマギーを妊娠させる。本人もマギーの両親もできたことはしかたないとして中絶をしようとするが、アーサーの父や教会員が、しつこく中絶は神への冒涜として、やめるように迫る。しかし、中絶は行われる。このことにより、ほぼアーサーは勘当状態となる。

 熱心な宗教指導者となった父に、暮らしの窮状を訴えて相談をする2人の姉妹がいた。姉は元売春婦で、今はトラック運転手が溜まるバーでウェイトレスをしている。妹大太りで少し知恵も遅れていて何もしていない。

 父は何かにつけこの姉妹の相談にのるために、家を訪問したり、時には主人公の家に連れてくる。

 ここで私は、この父は偽善者で、主人公と同じことをいつかするのではないかと少しわくわくして読み進む。

 そして、やはり姉が妊娠する。父は相手の男は誰かわからないというが、姉が相手は父だと言い、それが町に広まるからたまらない。

 そして母によると、父は圧迫に耐え兼ね、おなかの子は自分の子だと告白する。

ある日、アーサーのところに母からたいへんだから至急帰ってきてと電話がある。家の前まで来ると銃声が2発聞こえる。慌てて家に入ると、弟が父を射殺していた。30分以上口論したうえでの殺害だったと母が証言した。

 これは、ハイスミスらしくない。この口論の中身を描いてくれなきゃあ。ハイスミスは、そういった場面を描かしたら天下一品の作家なのだから。ここで父親の偽善ぶりとそれを鋭くつく弟との手に汗を握る場面を読みたい。

 結局何が交わされたか、母親の間接的表現はあるが、実際の場面はないまま物語は終了する。

 しかし、道徳家を気取って、他人の生活に侵入して、うわべの説教で、人々の生活にたがをはめる。そのたががとれたときの、人々の崩落ぶりは激しい。そんなことをハイスミスは物語にしている。

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| 古本読書日記 | 06:19 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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