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佐々木丸美    「崖の館」(創元推理文庫)

 佐々木丸美は1949年生まれで、1975年に「雪の断章」でデビューした。典型的な団塊世代のミステリー作家である。この世代の作家は、自分の考えや観念を抑制することができず、必要以上にそれらを書き表してしまう欠陥を持っている。

 処女作「雪の断章」でもそのきらいはあったが、ぎりぎりのところで押さえられ、むしろ個人の思いが、冬の北海道の雰囲気に溶け込み、リアリティのあるミステリーに仕上がっていた。

 しかし、この作品は、団塊世代作家の悪い面がですぎて、物語が現実から離れて空回りしてしまっている。

 物語は、高校生の女の子涼子の一人称で進行する。涼子は、突出した才能や知識があるわけでなく、平凡な高校生である。

 ところが佐々木さんが時々涼子に乗り移る。こんな風に普通の女子高生は考えない。
「絵の本質とは何なのか。
 人の霊魂を色彩と明暗によって豊かに表現してゆくもの。理論も構えもなく光のようにあらゆる層の人の心を埋めてゆくもの。そのときに真の芸術性が評価される。」

 由莉ちゃんという従妹が、密室で殺される。その時の涼子の感想が観念的で度が過ぎている。
 「死が不気味に感じるのは肉体の活動が停止し、魂の抜け殻らになった単なる物体であるから。死そのものは大宇宙の摂理に従うものであり、むしろこの世の悪を脱して清浄な無の世界へ還ってゆくもの。死は悲しむべきことではない。なぜなら生はあらゆる悪の温床でありどのように正しく生きたとて、生命維持のための弱肉強食の原罪からのがれることはできないのだから。」

 読者はミステリーとしてこの作品に接している。知りたいのは、由莉が密室でどんなトリックで、傷つけられることなしに殺害されたかを知りたいだけであって、こんな大上段に振りかざした死につての観念論を読みたいわけではない。

 自分の思いを書きたいというひとりよがりが、ミステリーを台無しにしてしまっている。

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| 古本読書日記 | 06:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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