FC2ブログ

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

アンソロジー    「ワルツ」(祥伝社文庫)

 戦後の大作家に松本清張がいる。どれも物語の出来栄えは完璧。だけど、すべての作品に共通の欠点がある。ユーモアが全く無いのである。

 この短編集は、苦笑や小さな笑いを誘う文章が挿入されている作品を選んで本にしている。

 圧巻なのは田中小実昌の「ご臨終トトカルチョ」

舞台は戦後まもない結核病院。そこには巨大な時計が飾られている。時刻を告げる音がものすごく大きく、夜も寝られない。患者の自治会から取り外すように要求がでるのだが、大事な有力者からの寄贈品のため病院側は拒否する。

 しかし、患者側もとり外されるとこまる事情があった。

 病院にはテンパイ室と呼ばれる部屋がある。ここに入れられる患者は、長くて数時間の間に死ぬ運命にある。

 今夜はとうとう町田さんがテンパイ室に入れられた。するとみんなでトトカルチョが始まる。町田さんの死ぬ時間を予想するのである。死んだ時間がもっとも近かった人が、掛け金を総取りする。万が一時間をピタっとあてた場合は掛け金の2倍がもらえるが、いまだ当てた人はいない。

 だから、みんなベッドで大時計の音を懸命に聞いている。この時の患者のしゃべりがすごい。

 「こい、今だ。一時三十八分・・・一時三十九分・・・一時四十分・・・ジャスト、ドンピシャリ?うーん、ドンピシャはだめだったか。・・・はやくう・・・うーん、じいさんなにをもたもたしているのだ。」

 「いや、いや、いや。じいさんは若いやつより案外保つからさ。あと一時間、頼みますよ。・・・もう一時間・・・息をしててよ。」

 「おねがいします。あと5分なの・・・ね。ドンピシャとはもうしません。さ、あと4分、3分。ほら、そこ・・・当たったら、半分香典あげるわ。だから、協力してよね。はい、あがり・・・」

 この凡人ではおよびもつかない発想と「・・・」を使ったみごとなしゃべり。田中小実昌の恐ろしい力をまざまざとみせつける。

 そのほか田辺聖子の「紐」も笑いがとまることなく、図抜けた作品になっている。
その昔「デート」という言葉はなかった。「デート」に代わる言葉「夜這い」と言ったと作品には記されている。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ



| 古本読書日記 | 05:39 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT














PREV | PAGE-SELECT | NEXT