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北村薫    「朝霧」   (創元推理文庫)

 とにかく北村は古今東西の本、戯曲、それから古典、古典芸術をよく知っている。膨大な読書量。私も負けないくらい読書はしていると思うが、読んだはじからすべて中味を忘れる。しかし北村はすべてを自分の物にして、創造する作品のキーとして使う。凄すぎ。だから時に私のような知識の乏しい読者がついてゆけない場合がしばしば起きる。

 この作品は、評判の「円紫師匠と私」シリーズ5作目。私は大学を卒業して出版社に勤めている。

 連作小説、どれも味わいある作品だが、その中でも「山眠る」が印象に残った。

主人公の私が小学生の時担任だった本郷先生が、定年真近になりまた同じ小学校の校長先生として赴任してきた。その時には先生は有名俳諧雑誌の重鎮となっていた。

 本郷先生は公民館で俳句教室を開く。主人公の知り合いも含めたくさんの生徒が通っていた。

 しかし本郷先生はある日突然みんなの前で句作をやめると宣言する。そして最後の句を披露する。

 「生涯に十万の駄句山眠る」

精魂を込めて詠み続けた10万余にわたる駄句。その痛恨の思いこもった最後の句で、雪山に10万を超える駄句を葬ってしまい俳句の人生。その情熱のこもった俳句人生も埋葬してしまおうという本郷先生の決意の表れた句だ。

 しかし、この句が最後では辛いとみんなが悲しむ。

冬のある夜、私が偶然先生と出会う。私が寂しいと先生に言う。
 先生が想いを語る。
「-幼い芽が水を欲しがる。そうすると春の陽が少しずつ、山の雪を溶かす。雪は水となって流れ、地を潤す・・・」
 私が答える。
「・・・すみません。今思っていることが、上手く言えません・・・」
 先生が心のこもった言葉を言う。
「ありがとう」と。

 埋葬した雪山の駄句も、春になると溶けて新芽がでてくる。
北村は下手な説明はしない。しかし読者には、これだけで、先生はまだ俳句を詠み続けるだろうということが伝わってくる。

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| 古本読書日記 | 06:33 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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