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吉村昭    「透明標本 吉村昭自選初期短編集Ⅱ」(中公文庫)

 吉村昭が文学界にその地位を築いた作品「戦艦武蔵」以前に書いた初期作品集2巻のうちの2巻目。いくつかは既読。

 吉村は、若い時肺結核に罹る。そして、ごく一時期行われたのだが、肋骨を抜き取り、肺を取り出すというとんでもない手術を受けている。それも、局部麻酔だけで行われ、発狂するような痛みを味わい、死の縁を歩く経験をしている。

 だから初期作品には、死というのが、深く、重くのしかかってくるような作品が多い。この作品集も死への深い洞察が描かれている作品ばかりである。

 この作品集の中では「煉瓦塀」の印象が強かった。

幼い喜代太、久枝兄妹の父は隣のコンクリート作りの建物の中で仕事をしている。その建物の中には、たくさんの種類の動物が飼われている。

 その中に10頭の馬がいた。実は馬には、ハブなど毒蛇の毒が少しずつ与えられ、そこでできた血清をとりだし、猛毒被害が発生する土地におくり、治療をするために馬は飼われていた。

 血清が体内の血に出来上がった馬は、殺戮場に送られる。馬は危険を察知して足を懸命に踏ん張り、殺戮場にゆくことを拒む。その殺戮場には最後の贅沢な食べ物として、ニンジンが数本おかれている。

 ある馬が明日殺戮場に送られることを知った喜代太は夜中に久枝を起こし、馬のたづなを引き、久枝と一緒に馬を連れ出す。久枝はどうしてかわからない。兄に聞くと「遠いところに行くんだ」と答えるだけ。

 一昼夜馬を2人で引き連れ、遠くまで歩く。夜になったので見つけた農家の小屋で過ごす。おなかが空くが我慢する。

 朝が来る。「さあもっと遠くへ行くぞ」喜代太が久枝とでかけようとする。その時持っていた手綱がすべって、馬が自由になる。その途端馬が走りだす。喜代太と久枝は懸命に馬をおいかける。しかし、とても捕まえることはできない。

 自由になった馬は、どんどん走り、やがてコンクリートの建物にはいる。そしてうれしそうにニンジンを食べる。

 悲しく、切ない物語である。

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| 古本読書日記 | 05:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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