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長野まゆみ   「冥途あり」(講談社文庫)

 長野家の家系史を辿ったような作品。もちろん小説だから、真実ではないことも織り交ぜているだろう。主人公もまゆみではなく真帆となっている。

 長野さんの作品は、大げさに感情をはきだしたり、感動を読者に強いるようなことはない。池に小さなさざ波をたてるように、きらめく言葉がさーっと通り過ぎる。それだけに、何気ない表現にドキっと胸を突かれ立ち往生することがよくある。

 主人公真帆の父は、東京生まれの東京育ち。これに嘘は無いのだが、実は、東京が空襲にあう日が多くなり、父は祖父の故郷広島に疎開した。

 そこで、父は原爆に会う。
長野さん、その時の様子を想像力を膨らませて描いているが、どこかぎこちない。それは長野さんは父が原爆のことを忘れたと言って語ってくれないからと小説に書く。

 私は戦後の生まれだが、幼いころはまだ戦争の匂いが残っていた。当時は、原爆被害を受けた人に近寄ってはいけないとか、被害を受けた人から生まれた子は、原爆症を発病するから付き合ってはいけないと、世間では言われていた。

 だから、原爆被害を受けた人は、そのことを口外しようとはしなかった。
当時から、もちろん原爆体験を伝えていこうという機運はあり、たくさんの被災体験記が語られただろうけれど、それより、やはり語ることはできない、口を噤むほうが一般的だった。

 今はそんな風評やデマは完全に払しょくされ、被害者が語り部となり次代に悲惨さを継いでいこうとしている。

 しかし、怒られることを承知で書くが、何か風評被害が払拭されてから、語られる言葉は真に胸に響いて来ない。私だけの思いだとは思うが・・・。

 真帆(長野さん)のお父さんは、原爆被害をどうして語らなかったのだろうか。

 真帆の祖父は、船に乗り、日本各地の港をめぐっていた。真帆の兄が、必要になって原戸籍謄本を取り寄せたら、驚くことに7通もあった。

 調べてみると、祖父は、めぐる港、港で戸籍を移していた。
戸籍ロンダリングというらしい。頻繁に戸籍を移すことにより、真帆の父やその兄弟の徴兵を懸命に逃れようとしていたのだ。

 もちろん、戦後祖父もそんなことを一切口を噤んで言うことは無い。

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| 古本読書日記 | 06:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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