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高村薫     「冷血」(下)(新潮文庫)

井上克美の裏求人サイトにアクセスして、犯罪コンビとなった戸田。ATM強奪に失敗して、その後無計画にコンビニ強盗を2軒で行い、12万円ほどの金を奪取。それから、思い付きで一軒家を襲おうと思いが一致。現金を置いていそうもない歯科医一家に押し入る。

 お金を盗むのなら必要のない歯科医の親を井上がいつも持っていた「根切り」で、父母を殴り殺す。ここからが全くおかしいのだが、戸田が子どもの殺害は自分がやると宣言、井上も一緒に2階の子供たちを殺害に行くかと思いきや、彼は一階に残り、キャッシュカードを探したり、貴金属品をかき集める。互いの行動に関心が無いのである。

 事件担当検事から、合田警部は、報告書は事件の構成要件を満たすようにしてくれとの要請を受ける。検察の訴追書は、供述内容や物的証拠に加えて、犯人の動機が書き込まれねばならない。

 しかしいくら問い詰めても「何も考えていなかった」「勢いでやった」「深い考えはなかった。」しか犯人からはでてこない。

 井上も戸田も当面の生活には困らない金は持っている。大きな借金もない。だから、金にひっ迫して、犯行に及ぶという想定にあてはまらない。キャッシュカードを使い引き出したお金1200万円を2人で等分。それだけの金があるのに3か月の逃亡の間、4-50万円しか減っていない。更に800万円余の価値がある貴金属品はすべてコンビニのゴミ箱に捨てる。

 井上、戸田とも高校をでて就職。いくつかの職業を転々とする。その間に、2人とも殴打事件を起こし、実刑で服役。

 普通の人は、生活基盤を持ち、社会的生活を送る。その枠からはずれ、井上、戸田のような浮遊する生活をする人がいる。私たちは、そんな人たちを私たちの規範、考えで理解、評価をする。

 この作品では、合田警部は、その規範を何とか取り外して、彼らの行動、衝動を理解しようとする。

 しかし、高村の想像力、言葉を持ってしても、表現不能なのである。言葉の弱さを知らしめる物語である。

 合田の粘り強い被告とのやりとり。その情熱が通じ、井上が死刑になるまで、合田に手紙を書く。合田もそれに答える。それでも、言葉が無く、2人はうまくつながらない。

 井上のたくさんの手紙の中に、被害者への謝罪や後悔の言葉は何もない。何よりも私たちは、殺害した人々への謝罪と反省を求める。

 深い溝がある。切なさとやるせなさだけが残る。

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