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村山由佳   「ワンダフル・ワールド」(新潮文庫)

 五感の中で、最も表現するのが難しいのが匂い。村山さんはこの匂いに挑戦して見事に表現で成功している。更にいつも思うのだが、セックスに対しての表現が実にうまいこと。淫靡にならず、欲情的にならず、それでも的確に読者に向かって紡ぎ出す。

 この作品集のなかでは「サンサーラ」がよくできていると感じた。

 主人公の香奈は、朝の電車での出勤途上、心臓が突然暴れ出し、呼吸が苦しくなり、出勤できなくなる。それから、そんな症状が突発てきにでて、会社どころか家からも出れなくなる。

 病院で診察してもらうと、体のどこにも異常はない。病名は「過呼吸症候群」と診断される。この病気は精神的ストレスにより発症されると説明を受ける。

 会社は当然のように退職となる。

 何とか薬の力を借りずに外出するように頑張る。8か月を過ぎると近くのコンビニまで出かけられるようになる。

 その少し先に「白蛇洞」という骨董品屋がある。中国を中心に悠久の歴史のある品を扱っている。香奈は小さい時から、その店に行って、主人の扱う品物の来歴、古い時代のことを教えてもらうのが大好きだった。あの頃の主人は40歳くらいだったか。

 その主人に頼んで、雇ってもらう。主人は「あせっちゃいけないよ」と優しく穏やかに語ってくれる。発作もおこらず安らぐ日々が流れる。

 その主人は、香奈は不思議に思うのだが、小さい時に出会ったまま今でも40歳の姿。全く年をとっているように見えない。

 ある日主人が言う。
「決めてあるけど、この店をたたんで、別のところに行くよ。それはうんと遠いところ。」
「同じように人目をつかないような店になるんでしょ。だったら店番がいるでしょう。私もついていく。」
・・・・・・
「安心して。あなたのために、私うんと長生きしてみせる。たとえ死んでもまた生き返って店番してあげる。」

 永遠に愛していたい。そんな真剣さがじわっと心にしみてくる。

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| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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